九、立ち聞き(9)

「そうだ、お茶淹れよう。どれにしようかな……よっしゃ、蒙頂もうちょうにしよっと。」
こう言うと楽しげにお茶を淹れ始めた。
茗粥おちゃっていいよなあ。茶葉が開くのを待つ間に気持ちが落ち着く。」
こっちは落ち着かねえよ。そんなに怒ってるんスか。
「お茶を挽かずに淹れるの、好きなんだよな。お湯の中で葉っぱが開くの、可愛いじゃん? 雑味も出ないしね。はい、どうぞ。」
にこやかにお茶を勧めてくれた。その笑顔が怖え。腹が痛くなりそうだ。
「…………。」
なんで黙ってお茶飲んでるんですか。なんか言って下さい。
「あ、そうだ、お茶うけ。」
松の実にスイカの種。旨いっスよね。いや、食べて飲んでないで、なんか言って下さい。
「……君は、誰の部下だい?」
「はい、韓隊長の部下であります。」
「うん。……。」
隊長は愛の告白をする人のようにもじもじとスイカの種をいじくっている。
「じゃあさあ、他の人の言うこと聞かないで俺の指示に従えよ。」
「はい。」
当然でアリマス。
「俺の指示で動いてる限りは、もし何か問題が起こってもそれは俺の責任じゃん? でも他の人のお使いでひょいひょい動いてたら、なんかあっても誰も責任とってくれないぜ。お前一人で抱え込まなきゃいけないぞ。そんなのおかしいだろ。今後他の人からなんか依頼を受けても、自分の判断で気軽に引き受けちゃだめだぜ。直属の上官に話を通してくれって言うんだぞ。分かった?」
「はい。」
なんだ、怒ってるのそこなんスね、立ち聞きじゃなく。
「今回のことは小さなことのようだけど、案外大きな問題の種が潜んでるような気がするぜ。神経質になってくれ。」
「はい。」
よく分かんないけど。とにかく他の人からなんか言われても、直に引き受けないで一旦隊長に相談しまーす。
「ああよかった。ブチ切れないで言いたいこと言えた。スゲエほっとした~。変な汗かいちまったぜ。へっへっへ。もう一杯飲む? 趣向を変えてこってり肉桂にっけいでも入れてやろ。」
カタカタと音を立てながら肉桂の入った壺の蓋を開ける。なにをそんなに緊張してたんだろう。おかしな人だ。隊長は優しげにニッコリ笑った。
「よく隠さずに話してくれたな。よかったよ。会話をすることは大事だな。なんか食い違いがあっても、すぐ会話できれば問題が小さいうちに修正できるじゃん? これからもこの調子で頼むぜ。なんかしでかしちまったと思ってもビビらねえで何でも言いな。俺もブチ切れてぶっとばしたりしねえからよ。ひゃっひゃっひゃっ。」
ふうん、隊長って、心底マジ切れした時は怒鳴ったりしないで笑顔なんだ。……怖え。



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