九、立ち聞き(8)

 隊長はきょとんとした顔で俺を見た。
「おっ、早かったな。」
ごめんなさい。お使い、行ってないす……。
「じゃ、みんなによろしく。」
にこやかに叔父さんを送りだす隊長。本当のことを白状したら、この笑顔が鬼の形相に変わるのだろうか……。
 叔父さんを見えなくなるまで見送って、俺の方に向き直った。
「もしや走って行ってきた? やる気満々じゃん。」
「いえ……。」
「ふうん。いや、早えなと思って。素朴な疑問。ありがとう。お疲れ様でした。」
「あの、すみません。実は、お使い行ってません。」
「あれっ、まだ行ってねえの?」
「いえ、あのお、書類は李隊長にお任せしました。」
「ギャハハハ、ずいぶん目上の人を使うんだな。お前そんなに偉えのか?」
「いえ、あのお、実は、李隊長が書類を届けるのは自分がやるからとおっしゃいまして。」
「ギャハハハ、親切すぎ。でも自分が頼まれたお使いを勝手に人様にお任せするってなマズいぜ。俺お前がやってくれると思って任せてるわけじゃん? それを勝手に李さんに任せちゃって、もしも李さんがなんか手違いしちゃったら誰が責任とんの? って、俺か。参ったなあ。言われたとおりに動いて下さい。君には自分が任された任務を他人に割り振る権限はありません。」
「はい。」
「李さん、なんかついでがあるから持ってってあげるって言ってくれたのかな?」
「いえ、あのお、実は、申し訳ありません。」
「ギク。その、先に謝られるっての、怖え。何事?」
「…………。」
「その沈黙、怖え。何事? えっとね、何言われてもブチ切れて暴れたりしないようにするんで思い切って言って下さい。泣きわめくかもしんねえけど。」
「あのお、実は、李隊長から頼まれまして。あの、さっきの叔父さんとおっしゃる方が隊長の彼氏なんじゃないかっておっしゃってまして、書類を届けるのは代わりにやるので二人でどんな話してるか聞いといてくれって言われました。」
「ふうん。……オエ。吐きそう。」
「え、急にどうしたんですか。」
「怒りのあまり気持ち悪くなった。」
「えっ……。」
「どうしようかな。」
隊長は本当に困った人のようにおろおろと部屋を半周すると、慌ただしく一つの壺を開けて中に入っていたお菓子を一つぱくりと食べ、深呼吸をした。変わった怒りの表現方法だ。



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