七、巨獣と競う(4)

 さて、状況開始だ。俺らが呑気に行軍してるところに、騎兵がハイ、来ました。ドカドカいってる。めっちゃ近付いてる。近い近い! 隊長、いつまでぼんやりしてるんですか! と思っていたら、突如として令旗が動きだす。ハイ、赤、黒。青、赤、黄。なんか知らんけど言われたとおり動きます。めっちゃドカドカいってる。超怖いんだけど。しかしすくむ隙もなくどんどん移動の指示が来るから、とにかく命令通りに動くことに集中する。もうもうたる土煙。窒息しそうだ。あ、目の前に馬。でも馬を傷つけちゃいけないからやりすごす。
 騎兵が遠のいた。何事もなかったようにもとの隊形に戻り行軍する。あ、また来ましたよ、隊長。来る来る来る。ぶつかるよ! いつまでじっとしてるんですか! 隊長! と思っていたら、突如令旗が動き出す。ハイ、青、黄。赤、白、黒。めまぐるしい。何も考えるひまがない。また土煙に巻かれる。馬がバテる前に俺達が窒息しそうだ。手で掴めそうなくらい近くを馬が通る。しかしやり過ごす。馬上からほこにみたてた棒でツンツンやってくるが気にしない。もし目の前に棒が来たら、目いっぱい引っ張って落馬させてボコボコにしてやるまでだ。
 また騎兵が遠のいた。何事もなかったようにもとの隊形に戻る。俺達はしきりに隊列移動を繰り返しているものの、一回あたりの移動距離は短いものだ。それに対して、騎兵は一度の突撃が終わるといちいち大回りして戻って来るから、一昼夜で六百里がせいぜいの人間様でも充分千里の名馬と体力勝負ができるのかもしれない。俺達の装備も重いが、馬は自身が馬鎧ばがいを付けている上に武装した人間を乗せて走っているわけだから、負荷としては我々が感じているものよりも大きいだろう。馬といえば我々には歯が立たない巨獣だと思っていたが、意外に互角な相手なのかもしれない。ちなみに、馬に乗って棒きれを振り回しているチビどもはもとより俺達の相手ではない。馬を操りながら戦える技術には敬服するが、馬上から突いてくるほこをかわすのは容易なのだ。
 ところで、騎兵の一部の動きが妙だ。隊列を無視して好き勝手にうちの隊長を襲撃にくる奴が後を絶たない。なんなのだろう。そういう作戦なのだろうか。こう屯長が声をかける。
「隊長、大将首狙われてますよ。護衛つけなくていいんですか?」
「放っとけよ。俺がやられたら陳さんが指揮をとる。」
陳屯長が動揺する。
「エッ。」
「エッ、じゃねえよ。覚悟しな。ケッケッケ。」
そう言いつつ鉄騎兵をボカスカやっつけている。そう、ボカスカやっているのだ。敵は長い棒で突いてくるから、大体は向かってくる棒を引っ掴んで馬から引き落としているのだが、それでも落ちない奴は棒を思い切り引っ張って馬ごと引き寄せて素手でぶん殴っている。隊長は自分を狙いにくる騎兵には目もくれず全体を見ながら令旗を振っているのだが、目もくれていないくせに近付く奴はちゃっかりやっつける。左手で敵の棒を引っ張りながら、右手に令旗を握り、その旗を握った手のまんま殴りつけている。おかしな姿だ。この人の戦闘の決め手は、基本、素手なのだろうか。まさか実戦でも素手で闘うわけじゃあるまいな……。



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