五、魔境(3)

「このあいだ三百里歩いたじゃん? 足腰痛くなっちゃったり血豆できて皮剥けちゃったり、けっこう苦労したろ?」
「えっ……はあ。まあ。」
「みんなだいたい治ってきたかなあ。」
こう言ってみんなを見まわす隊長。顔と顔を見合わせる俺達。
「えっ……はあ。まあ。」
たぶん、優しい気遣いから質問してくれてるわけじゃないだろうと思うが……。
「ふうん、そりゃよかった。」
ああ、このフリを聞いただけでもう逃げ出したい。
「じゃ、今日からちょいと歩く練習をみっちりやってみようかな~。」
「エエ~。」
「なんだ、エエ~って。」
「新兵じゃあるまいし。」
「だって君ら歩くの下手すぎ。新兵並み。歩くの下っ手クソだからあちこち痛くなっちまうんじゃねえの? 無駄に体力使っちまったりよお。まったく、なってないぜ。」
「そこまで侮辱することはないじゃないですか。取り消して下さいよ。」
「へっ。てめえら怒る資格ないぜ。実績に裏打ちされてない薄っぺらな自尊心は捨てな。やることキッチリできてから発言しやがれ。」
う~ん、なんたる屈辱。
「じゃさっさと指導して下さいよ。やることキッチリできた日にはガンガン文句言ってやる。」
売り言葉に買い言葉だ。隊長はニッコリと笑った。
「望むところです。」

 ニッコリと笑って丁寧語で応じたわりには、失礼な態度で指導をされた。失礼、というか、屈辱的だ。隊長はそこらに落っこちていたテキトーな木の枝を手に持って、俺達の歩くのを見ながら、腹が出てるだのケツが出てるだの、膝の運び方がジジイみてえだのと、気に入らない箇所をこまごまと指摘しながら、その都度その箇所を、さっき言ったテキトーな枝でツンツンとつつくのだ。つつかれる度に、ムカツク。腹が立つから即座に修正するが、次から次へと、体じゅうぜんぶなんじゃねえかって思うほどこまごまとやられるんだ。いいかげんブチ切れそうになる。と思っていたら、俺より先にブチ切れる奴がいた。
「もうっ、どうやったらいいんですか。体中コリコリですよ。」
「ギャハハハ、みんな不器用すぎ。まあいいや。ちょっと体操しよう。」



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