五、魔境(2)

「また十二、三人分ですよね。」
「そんなもんだろ。」
「じゃあまた手勢令むしジャンケンでどの什の奴が貰うか決めていいですか。」
「へっへっへ、手慣れたもんだな。ご自由に。」
う~ん、什単位か。そうすると、王什長が手勢令むしジャンケンに勝ってくれないと、俺食えないじゃないか。だめだよ。あの人手勢令むしジャンケン弱いんだ。案の定、王什長は負けた。しかし俺はしれっとお椀を持って待機する。このあいだだって勤務兵は別枠だったんだから、今日もそれでいいじゃないか。誰かがズリいぞって言いださないか心配だったが、誰も問題にしていない様子だ。シメシメ。と、思っていたら、隊長がニヤニヤしながら
「勤務兵ってのはずいぶんオイシイ役どころらしいな。」
と言いやがった。畜生、なんて細かい野郎だ。
「あっ、てめズリいぞ。」
「ズリいもんかよ。俺この人とずっと一緒にいなくちゃなんねえんだぜ。あからさまにいじめられてんの見たろ? ちょっとくらい何か食わせてもらったってなあ、こんなもん慰謝料だ、慰謝料。わりたきゃわってやるぜ。」
おや、みんな沈黙しやがった。
「誰かいねえのか、勤務兵やりたいやつ。」
いないらしい。つい数日前に、百何十倍の倍率だったというのに。なんということだ。隊長が呑気に
「スゲエなお前、弁が立つなあ。」
と感心する。
「なに言ってんですか。これ隊長の人徳ですよ。」
「まあそう褒めるなって。ひゃっひゃっひゃっ。」
「なに喜んでんですか。」
「嬉しいぜ。人徳だとよ。ああ愉快、愉快。はい、栗おまけしときました。」
上機嫌で栗を多めに入れてくれた。おかしな野郎だ。あきれながら無造作に粥を口に流し込む。――お帰り、あなた。と、栗が話しかけてきた。俺、誰かに「お帰り」なんて言ってもらうの何カ月ぶりだろう。なんて優しい味だ。ほんのり甘い濃漿のうしょうに栗の情愛がとろけ出し、つるりとした竜眼が甘酸っぱく官能をくすぐる……
「あのお、なんで、苦手な食べ物をわざわざ作ってるというのにこんなに美味しく作っちゃうんですか?」
「旨かった? そりゃよかった。」
「まさか隊長、これ不味まずいと思いながら食べてるんじゃないでしょうね。」
「不味いとは思っちゃいないよ。鳥肌体験。良い気持ちだ。」
「変態。」
「失礼だぞ。」
一緒に食べているみんなが失笑する。こんな他愛もないことで笑えるとは、みんな機嫌がいいんだな。おいしいものを食べる時はみんな笑顔だ。隊長も目を細めている。と、思って油断していたら、隊長が剣呑けんのんな話題を持ち出してきた。



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