四、反則・非道・非常識(3)

陳屯長ちんとんちょうが隊長をなじる。
「ここは戦場じゃないし、彼は敵兵じゃありませんよ。非常識じゃないですか。」
「おっと、こいつはうっかりしちまった。へっへっへ、可哀相に。俺に立ち向かっちまったのが運の尽きだったなあ。ご愁傷様。」
まったくあきれた。他人には軍刀術の型を正確にならうのは大切だと説きながら、自分は構えもしないでこんな汚い勝ち方をして平然としている。なんと非道な男だろう。隊長は楽しげに棒をぶんぶんと振り回した。
「さて、この人でなしの韓英に怒りの鉄槌を加える奴いる? 鉄槌じゃなくて棒きれだけどな。」
「くたばれ!」
こう言ってかかっていったのは子儀と同じ伍の宋仲謙そうちゅうけんだ。
「援護しろ!」
上官の孫什長が指示を出す。隊長は嬉しそうに十人を手当たり次第にぶちのめす。他の隊員たちもすっかり熱くなり続々と乱闘に加わる。
「かかれ!」
「人海戦術だ!」
「殺せ!」
「足を狙え!」
「後ろ取れ!」
何がどうなっているんだか分からないが、近寄るそばから次々と打ち倒されていく。
「ギャハハハ、倒れろ! 泣け! 打ちひしがれろ! おのれの無力さを思い知るがいい!」
それ完璧に悪者の言い様じゃないか。隊長が俺に呼びかける。
「おい季寧、ボケっとしてんじゃねえぞ。憎い隊長をぶちのめす好機だぜ。今ならうっかり殺しちまっても事故で済む。ほら見ろ、隊長こんなに大勢の精兵に囲まれちまった。へっ、来たぜ、ほら危ない! 今だ、殺れ!」
今だ、殺れ! と言われて素直にやる奴は馬鹿だ。返り討ちにする公算があって挑発してるに違いない。俺は馬鹿丸出しで隊長に打ちかかる。野郎、ナメやがって! 死ね、韓英!

 ……そういうことか。理解した。
 何がどうなったのか分からないがいつの間にかきれいに仰向けになって雁が列を作って遠くを飛んでいくのを眺めながら、俺はさとった。隊長が「殺れ!」と言って俺を誘ったのは、本当は隊長が俺を殺っちまいたかったんだろう。自分から部下に手出しするわけにいかないもんで、俺からやらせたわけだ。ふうん、そう。
 ナメた真似しやがって。ちょいとぶっ飛ばしたくらいで俺の闘志が消えると思うなよ。野郎、ブッ殺す!



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