三十八、得勝回(勝ちを得てかえる)(7)

 目の前にいるのが姜奉義の虎の子の精鋭だ。俺の場所からはよく見えないが。うちの部隊より背が高い奴ばっかなんじゃねえの? みんなの頭ごしに奴らのかぶとのてっぺんがぴょこぴょこ見える。獲物はげきだな。横を味方の弓騎隊が矢を放ちながら通っているが、奴らには動揺している様子もない。弓騎隊の張隊長が真後ろを向いて
「がんばれよ!」
と言いながら通り過ぎていった。
 隊長は再び愉快そうに笑った。
「大声出そうぜ。ハイ、殺せー!」
「殺せー!」
みんな馬鹿丸出しの大声で唱和する。笑顔で言う言葉じゃねえだろ。怖えよ。鬼。悪魔。人でなし。全員人でなしになりきって、
「殺せ! 殺せ!」
と大合唱しながら斬りかかって行く。最前列には気性の荒い奴を配置しているんだ。斬り合いの様子がどうなっているのか分からないが、倒した敵兵のかぶとを引き剥がしては、これ見よがしに上に放り投げている。敵の一名を倒す間にこっちの何名が倒されているのか知らないが、とにかく甲がぽんぽん飛ばされているのを後ろから見ていると、前の奴らがんばってるなーというのがよく分かる。
 前の方の戦列が乱れ始めているのは分かるが、後ろで斬り合いの順番待ちをしている連中は殺気満々で
「殺せ! 殺せ!」
と叫んでいて、らされているぶん声もどんどん荒々しくなっている。敵の精鋭も負けず劣らず荒々しい声で
「殺せ! 殺せ!」
と叫んでいる。叫喚きょうかん地獄だ。斜め横から敵の弓騎兵が矢を放ちながら突入してきたが、みんな隊長の指示通りに馬の進路を少し開けると
「殺せ! 殺せ!」
と叫びながら、さっき前列の奴らが投げてよこした敵の甲を騎兵の顔面めがけて思い切りぶん投げている。そうしろと命令されたわけではない。俺達は相手を挫くためにできることを全部やるという習慣が身に付いているんだ。精神的にも、身体的にも、あらゆる手段を使って敵の力を殺ぐ。
 だいぶ戦列が入り乱れて来た。彼我ひがともに殺気満々だ。時々俺のひとつ前の伍まで敵兵が入って来るのが見える。何人かげきでぶちのめされながら、相手を叩きのめす。深くまで入り込んでくる敵兵の数は増しているが、こっちから向こうに入りこんでいる奴の数も増していることだろう。
「殺せ殺せ! あと二十歩だ!」
姜奉義が逃げてしまうということはないようだ。きっと魏鎮北がうまく包囲陣を敷いたのだろう。矢も飛んでくるし馬も突入してくるが、俺達には憑き物がついているから何もかもがよけていくんだ。っていうか本当は、味方の援護が有効に作用しているんだろうけど。



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