三十八、得勝回(勝ちを得てかえる)(5)

 それはさておき、ションベンどうしようかな。と思った矢先に、あたかも以心伝心のように、横に微動だにせず立っていたクロが突如足を開いてジョボジョボと放尿し始めた。ああびっくりした。ションベン中のくせに涼しげな顔しやがって。誰に似たんだ。俺はもじもじしながら隊長に訊ねた。
「あのお、ションベン行って来ていいですか。」
「だめ。ここでしな。」
「えっ、なんで! 我々ション友なんじゃなかったんですか!」
「動かざること山の如しだよ。」
「人でなし!」
「さっさとしろよ。移動が始まったらションベンする暇もなくなるぞ。そうだ、こんど歩きながらションベンする練習しよっか。」
「ヤダ! それ士気下がる!」
不承不承、クロのションベン溜りめがけて放尿する。クロは迷惑そうに足踏みをした。終了してぷるぷる振っているところで、
「季寧も隊列に入っといてくれる? 手助けが必要な時は呼びます。」
と言われた。俺を戦列に入れるってことは、最後の一兵まで戦わせる構えなんだろうな。兵隊が全滅して、隊長が令旗をなげうって得意の左手で隠し剣を振い、力尽きてたおれた時点で我が部隊は終わり。ふうん。ま、演習だからいいけどさ。
 王什長のところに戻る。みんなとりたてて不審そうな顔もせず俺を列の中に入れる。中軍の端っこにいた騎兵が左翼の救助のためにドカドカと走って行った。こうやって中軍が手薄になったところで姜奉義は本腰を入れて攻めて来るつもりだろう。そして、うまくいけば左翼を撃破した部隊と一緒にここを挟撃するつもりだ。面倒くせえなあ。
 敵中軍が渡河を開始し、半ばを渡ったところで我が方の各隊にも移動の指示が出始めた。全体的にやや前進しながら、雁行がんこうの陣をとるようだ。河を渡って来る敵をやっつける構えだな。ま、左翼から敵が来なければこれでいいんじゃない。左翼のほうを窺う。砂埃すなぼこりでよく見えないが、さっきかねを鳴らしていた連中が今は太鼓を鳴らして戦っているようだ。さっきあっちに救援に行った騎兵と一緒になって敵を挟撃しているんだろう。せいぜい頑張ってくれ。
 渡河を終えた敵の騎兵が突撃をかけてきた。そいつらを矢で滅多打ちにしつつ移動して、我が軍の雁行の陣がぶっちぎれていくけど大丈夫なんだろうか。隊長がどんな顔をしているか見てみたい気がするが、後ろを振り返ってるとビビってると思われるからやめとこうっと。どうせ奴は面白そうにニヤニヤしてるに違いない。
 うちの部隊は戦線の外を大回りしてわけのわからない移動をしている。隣の戟盾隊げきじゅんたいは敵のの部隊めがけて突撃をかけて行った。今、どんなことになってんのかな。双方の旗が入り乱れているように見える。



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