三十七、小友(8)

 連れ立って隊長室に戻る。
「このたぐいはここらへんにあるんだ。」
収納箇所の説明をしながら書架をう~んと睨み、
「この子かな?」
と言いながら一本をさっと抜き取り、開く。
「よしよし、これです。この端っこのでこぼこ加減で覚えてた。これ数字とか固有名詞とか入れ替えればほとんどそのまま使えるじゃん?」
「なるほど。ではさっそく。」
「よかったらここで書いてく?」
エ~、それ絶対イヤでしょう。俺だったら断固、自室に持ち帰ってやるな。しかし陳屯長は意外にも
「はい。ではお言葉に甘えまして。筆記具お借りします。」
と大人しく几案つくえの前に座った。ま、そのほうが何か質問があった時にすぐ聞けて便利だろうけどな。それにしても、上官にじっと見張られながら目の前で書き物するなんて、俺だったら絶対ごめんだな。隊長は見張ることはせず、ルンルンと再びお茶を淹れにかかっている。陳屯長に飲ませるつもりなんだろう。この人らは意外に相思相愛なのかもしれないな……。
 茶が煮えるのを待つ間、隊長がニヤニヤしながら書架を指さした。
「上から二段目と三段目は例文として保管してるやつなんで、何か書かなきゃいけない時はゴソゴソあさってみるといいよ。」
「これを機に私にあれこれ書かせようって思ってません?」
「はい、思ってます。ひゃっひゃっひゃっ。」
不服気に顔を上げる陳屯長。隊長は視線をかわすように書きかけの書類を覗きこんだ。
「端正な字だね。人柄が表れてる。」
褒めてごまかしながら蓋つきの小さな壺を開けて香辛料を匙ですくう。陳屯長は隊長の手つきを不審気な目つきで観察している。自分で筆を執ることぐらいできるんじゃねえか、と疑っているに違いない。茶の煮える鍋に楽しげに香辛料を振り入れて顔を上げた隊長は、陳屯長が自分を見ていることに気付くと冷然と
「早く書け。」
と命じた。褒めたりおどしたり、めまぐるしい。



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