三十七、小友(7)

「霊感なんて、そんなもの信じてるんですね。ほんと呆れますよ。ただ怪我したってだけじゃないですか。嬉しそうな顔しちゃって、おかしいですよ。」
「人間万事塞翁さいおうが馬だよ。いま目の前にある現実が最善のものであると信じて過ごせばいつも満ち足りた気持ちでいられるんじゃない。転んでもタダで起きる気ねえし。この状況を最大限利用していろいろやってやろうと企んでるんだ。」
「エエ~……。」
ほんとロクでもねえ野郎だな。

 鍋底にくっついてる茶葉とか、隊長どうやって処理してるんだっけ。いっつも勝手にやらせてるから知らないな。ま、ふつうに生ゴミでいっか。ポイポイっと。俺が慣れない手つきで茶器を片付けていると、隊長は几案つくえの横にしゃがみこんで指先で巻物のひもを解いてするすると開き始めた。と、ニヤっと笑って
「おっ、そうだ。」
と言うや、その書類を持ってルンルンと部屋を出て行く。片手に書類を持ってたら、手を使う作業いっさいできないんじゃなかろうか。一人で気軽に出かけんなって。慌てて茶器を片付けて、隊長を尾行する。
 隊長はウキウキとした足取りで、陳屯長の部屋まで行って屯長の目の前に立った。陳屯長は無言で胡乱うろんそうに隊長を見る。たぶん、「怪我人が遊び歩いてちゃだめじゃないですか」って叱りつけたいけどひょっとすると用事で来たのかもしれないな、って思って、用件聞いてから叱ろうと思って沈黙しているんだろう。隊長はニコッと笑った。
「陳屯長、一つお願いがございます。」
「はい。なんでしょう。」
「これちょっと処理してくれる? なんか書かなきゃいけないんだけど。」
「はい。かしこまりました。」
「じゃ、よろしくお願いします。」
と言うが早いかくるりと回れ右をして自室に向かって歩き出す。陳屯長があわてて追いすがった。
「お待ちください。」
動揺しているのか、言葉づかいがいつもより丁寧だ。
「何を書くか言って下さいよ。」
「あれ? おれ処理して下さいってお願いしたんだけど。」
「なんだ。代筆じゃないんですか。」
「違うよ。おれ自分で書くの大変だから面倒くせえから陳さんに丸投げしちゃお~って思ってさ。よろしくね。」
「待って下さいよ。ええと……。」
陳屯長が大慌てで書類を斜め読みする。
「はあ。大体分かりましたが、書類の体裁が整えられるか自信がありませんよ。」
「なんか前に似たようなやつがあったな。えっとね、ちょっと俺の部屋に来れる? いま時間大丈夫?」
「常時即応です。」
「ギャハハハ、マジか。俺もし拉麺茹でてる最中に将軍が呼びに来たら茹で終わるまで待ってくれっつうな。」
「打ち首にされるんじゃないですか?」
「ギャハハハハ。」



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