三十七、小友(5)

「え、想像もつかないです。」
「兵隊狩りだよ。あれは痛恨の極みだったなあ。間違って横っちょの路地に入りこんだまんま、脇目も振らずに坂をとっとこ下ってっちまえば、俺は今ごろ全然違う人生を歩んでいたことだろうよ。」
「え~、それ、路地に入ったのは無意識の危機回避行動だったってことなんですかあ?」
「ギャハハハ。意味不明だろ?」
「っていうか、超能力なんじゃないですか?」
「霊感かもよ。」
愉快そうになつめの実を口に放り込む。……やっぱコイツ、怪談の主人公だな。
「そういうことがもう一回あったな。南中なんちゅう遠征中、クソ暑っちい中を半日行軍して、水筒の水も底をつき、参ったなぁと思ったところで見るからに綺麗な泉に遭遇したわけ。んで、みんなで順番こに水筒の中に水を入れてさ、次の奴と交代して後ろに下がってからガブガブと水筒の水を飲むわけだけど、俺、さあ飲もうと思って蓋を開けたのに何故かジャーっと地面に水をぶちまけちまったんだよ。発狂したかと思ったぜ。だって喉カラカラなんだよ? どうして大事なお水を捨てちゃうんだよ! って自分で自分に対して怒り狂っていたら、旨そうに水を飲んでた周りの連中があわあわと奇妙な声をあげながら苦しみだしたんだ。それがかの有名な唖泉あせんの毒水だったわけ。」
「……ちょっと。話ができすぎですよ。」
「実話だ。」
「実話なわけないじゃないですか。そんな作り話をして一体なんの役に立つってんですか? 百戦錬磨の猛者もさは霊感まで持ってるぞ、すげえぞ俺、って言いたいんですか?」
「百戦錬磨って、なんかイヤラシイな。いろんな相手と幾多あまたの性交渉を行ってるって意味を思い浮かべちまう。」
「文字通りの意味で言ってんですよ。歴戦の猛者。」
「歴戦の猛者モサ? ますますアヤシイ。」
「ちょっと、会話にならないじゃないですか。文字通りに解釈して下さいよ。」
「戦歴なんて関係ないよ。生まれつきのもんじゃねえ? 刀も持てないヘナチョコ小僧の頃からそうだったわけ。」
「ふうん……。どうりで馬鞍山ばあんざんで死なないわけだ。不死身だっていう噂もあながち荒唐無稽な話ではないのかもしれませんね。」
「直感を疑って後から修正を加えるとしくじるようだぜ。徴兵された時みたいにな。あれっ、いまなんでこう動いたんだ? って思った時は、意味不明でもそのまんまいじらないほうがいいようだ。だからさ、今回鎖骨さこつをスコンと折らせちまったのもたぶん間違いじゃねえな。」



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