三十七、小友(4)

「いや、まさか、そのくらいで手元てもと誤ったりはしないよ。」
「エ~、ほんとですかあ? 怪しいなあ。まさか、わざとやったわけじゃないでしょうね? っていうか、なんでしたっけ、お得意の無意識で。」
「お得意の無意識? なんだそれ。」
「なんか言ってたじゃないですか、無意識に肉体を破壊してるって。」
「ギャハハハ、なにそれ。病的な人だな。」
「毎日毎日立ち合いやるの、いいかげん嫌気がさしてたんじゃないですか? とどめに仲允の心ない野次やじを聞いて、もうヤダ! って思っちゃって無意識にぴょっと下手な動きをしちゃったんですよ。」
「ふうん。」
「ちょっと、ふうんって、自覚ないんですか?」
「自覚があるなら無意識とは呼ばないだろ。」
「誰かに自分を倒させておいて、ああみんな上達したなあ、めでたしめでたし、って話を終わらせたかったんじゃないんですか?」
「へえ。」
「ちょっと、なに他人事みたいに聞き流してんですか?」
「だって無意識なんだろ? そんなん俺に言われたって知るわけねーし。」
「絶対無意識にわざとやってますって。」
「無意識にわざと、って言葉が矛盾してねえ?」
「だって隊長、支離滅裂な人じゃないですか。」
「ギャハハハ。」
愉快そうに何か考える表情をしながら、左手だけで上品にお茶を飲む。
「なんかさあ、あれっ? いま俺なんでこんなふうに動いた? ってなふうに、自分で意味不明の動きをしちまうことってねえ?」
「え~、……あれですかねえ、夜寝てる時に、寝ぼけて自分で自分の体をまさぐっているっていう。」
「ギャハハハ。」
「ひとに言わせといて笑いものにするってひどくないですか。隊長はどんな意味不明の動きをしてるってんですか? 傍目はためには動作の八割方意味不明ですけど。」
「今を去ること二十一年前、束髪そくはつも初々しい十四歳の俺っちが、胡人こじんのやってる羊の串焼きの屋台を目指して山城さんじょうの入り組んだ階段道をルンルンとのぼっていたわけ。屋台は階段登りきったところのちょっとした広場にあったんだ。さあもうちょっとで目的地だぞ、と思ったところで、なぜかひょいっと横の小っちゃい路地に入っちまった。おかしいな、どうして手前で曲がっちまったんだろう? と首をかしげながら引き返して、もとの階段に戻って広場まで上ったよ。そこでばったり出くわしたのは、いったい何の団体さんだと思う?」



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