三十七、小友(10)

「この格好でブラブラでかけて行ったら将軍が同情して優しく話しかけてきたから一個おねだりしてやった。ねえ何だと思う~?」
絡むな。ウゼえ。
「どうせ何かろくでもないことでしょう。」
漢城かんじょうの軍を誘って大規模な演習やってくれるってさ~。何人集まるかなあ? ワクワク。」
「え~、それ、そんな喜ぶようなことですかあ?」
「だって、思いっきりやれることなんて、実戦ではあんまねえじゃん? 演習で他の駐屯地にまで声かけてってのもめったにねえだろ。司馬懿を殺す練習ができるぞ~。」
「え~、漢城の連中とやるんだったら、絶対こっちが仮想敵じゃないですか。」
「違うよ~。ガチでやるんだよ、ガチで~。向こうもこっちも、お互いに自分が大漢軍のつもりで、死ね! 司馬懿! って叫びながらやるわけ。どっちが勝つだろうな~。ぜったい勝とうぜ! 孔明のおっさんをやっつけよう!」
「え~、それ不敬。将軍が口約束してくれただけで、べつに確定じゃないんですよね。浮かれすぎじゃないですか?」
文長ぶんちょう親分が一言『やるぞ』って言ったら、無下むげに断る奴はこの漢中盆地にはいねえよ~。やったぜ! ひゃっひゃっひゃっ。」
「ところで、さっきのお茶うけの残り、勝手につまみ食いしたんで申告します。竜眼を五個と杏を二個です。」
「おう、黙ってないでちゃあんと申告して偉いじゃん。感心感心。」
「黙ってても絶対バレそうだと思ったんで。」
「へえ、お利口さんだな。偉い、偉い。ご褒美に残りの竜眼と杏ぜんぶあげちゃう。今日の俺様は上機嫌だ。」
「ヤッタ~!」
つまみ食いしてご褒美もらうなんて、トクしたぜ。

 翌日の朝だ。昨日は怪我をしたにもかかわらずたいそうご機嫌の様子だったので、今日はぜったい朝からルンルンお料理をしているに違いないと期待しながら起床したが、意外にも、炊事場に隊長の姿は見えなかった。ああそっか、片腕吊ったまんまじゃお料理もできないか。チェッ。
 気を取り直して、点呼、健康観察、清掃を済ませ、朝飯を食う。おかしいな。食事時になると、隊長は他人の迷惑を顧みずにどっかの什に乱入して一緒に食事をするのに。まさか、寝台の上で横臥の体勢から起きあがるのに四苦八苦しているわけじゃあるまいな。面倒くせえが早く様子を窺いに行こう。熱々の粥を口の中火傷やけどしそうになりながら流し込み、酷黄瓜ツーフアングア咸豆腐シエンドウフを丸ごと口に放り込んで落花生と茹で卵を懐中にねじ込みながら早足で隊長室に行く。と、隊長は寝間着姿のまま几案の前に座って呑気に芝麻ジーマー酥糖スータンをコリコリとかじっていた。俺の顔を見てニコッと笑う。



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