三十七、小友(1)

 お日様の照っていない時間帯には寝言を言い、白昼には譫言うわごとを口走る。正気なのは戦時のみ。ほんとロクでもない野郎だな。三十年後かよ。三十年後には、隊長は六十五で、俺は五十三だ。五十三かよ。まだ定年前じゃねえか。クソッ。
 ヤツの三十年計画の中に、結婚の予定なんか入っているんだろうか。もしも独身のまんま、めでたく天下泰平が成って、十四歳から軍事一辺倒できた世間知らずの身寄りのない六十五のジジイがシャバへ放り出されたとしたら、目も当てられない。家族のことを愛していれば人生間違うことはないらしいが、野郎は十代前半でうっかり早まって家出をしちまったから人生間違っちまったんだろう。俺はたとえ天が崩れ地が裂け人類が滅ぶ日が来ても決して不幸な死に方はしないらしいが、そう言っていたあいつはきっと世界がどんなにすばらしい泰平を迎えても永遠に不幸なまま生き続けるんだろう。あいつはとっくに魂を失った僵屍キョンシーだから、寿命というものもないはずだ。

 面倒くせえから放っとこうっと。
 何事もなかったように本日の課業に入る。今日は障害物競走をして遊ぶ。武装したまま。何度も何度も。これぜってえ遊びじゃねえだろ。しごきだろ。炎天下に。殺す気か。ああ~、いつまでやるのかなあ。ニヤニヤしながら傍観していやがって。
 顔が真っ赤になって頭がガンガンしはじめた頃にようやく休憩が入る。よろいを外して木陰にぶっ倒れて水をガブガブ飲んでいると、隊長がへらへらしながら
「塩飴なめる?」
と言って、またしても何やら怪しげな飴を配り始める。この人の持ってくる飴を舐めるの、なんか怖えんだよな。ぜったいなんか薬物入ってそう。これも舐めたらきっと変に元気が出て限界を越えた運動ができるようになるんだろう。…………。
 好奇心に勝てず、さっそく飴を舐める。うわ……なんだこれ。旨い。え~、なんでえ? 塩、甘いぞ。塩って甘いのかよ。しょっぱいんじゃねえのかよ。ほんと不思議だなぁ。しばらくふうふう言いながら木陰にぶっ倒れていると、じんわりと元気が戻ってきた。そうそう、これだよ。薬物なのか妖術なのか知らないけどさ。
 むくりと起き上がり、飴の効果にウケてへらへらと笑いながら水を飲んでいると、五歩ほど離れた地点にぶっ倒れていた劉仲允りゅうちゅういんがごろごろとこちらに転がって来ながら
「季寧~、教えてよお。隊長の弱点~。」
と言って、俺の膝に勝手に頭を載せて膝枕の体勢になった。
「キモッ!」
「おれ今日の夕方立ち合いなんだよ~。教えてよお、弱点~。」
「あいつ弱点だらけだろ。あんな弱い奴を倒したって自慢にもなんにもならねえじゃん。」
「地上最強の生物じゃん。生物じゃねえかもしんねーけど。」
「精神的に弱すぎ。見ててイライラすんだけど。」
「じゃ心理面を攻めりゃいいのかな? なんか嫌がること言うとか。」
「え~、弱い者いじめやめろよなあ。」
「お前の母ちゃんで~べそ、とか、そんな単純なんでいいかな。」
「やめとけって。泣くから。」
「外したら怒り狂ってボコボコにされそうだな~。」
言葉とは裏腹に楽しそうに笑いながらごろごろと転がってもとの地点に戻って行く。
「ほんと、弱い者いじめやめろよな。お年寄りには優しく!」
仲允のやつ、冗談だと思ってゲラゲラ笑ってやがる。



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