三十六、譫言(うわごと)(2)

「喘息悪化してませんか? 最初の一年間は健康そのものだったのに、二年目に入ってから四回も発作おこしてるじゃないですか。」
「一回大きい発作おこしちゃうとしばらく安定しねえからなあ。一年くらいなんともない期間があるといいんだけど。」
「じゃあ思い切って一年ゆっくり休んだほうがいいんじゃないんですか。」
「寿命四年しかなかったら一年休もうって発想は出てこないよ。」
「あれっ、寿命縮んでませんか? 五年って言ってませんでしたっけ。」
「そう言い始めてからもう一年経ったからな。」
「自分がまるまる参加する必要はない、共通の目標に向かって各々自分の参加できるところをやる、って言ってたじゃないですか。無理せず参加できるところだけやりゃあいいんじゃないんですか。」
「この四年に限ってはそうじゃねえ。世の中がこっちの都合に合わせて止まっててくれるわけじゃねえからよ。何をやってもやらなくても、いま十一のガキは四年後には十五になる。」
「三十年計画なんじゃないんですか?」
「この四年は重要だよ。重たい荷物を押すなり引くなりして運ぶ時にさ、最初に荷物が動き出すまでエイヤっと力が必要じゃん? いったん動き始めれば、あとはスーっと軽い力で動くだろ。この四年ががんばりどころなんだよ。」
「ふうん。そんな四年間に居合わせちまったと思うと、面倒くせえ。四年間隠居してて五年後に出て来ていいですか?」
「季寧が隠居したら誰が代わりに兵役につくの? お兄さん?」
「そうさせないためにイヤイヤここにいるんじゃないですか。そうでなけりゃあなんにも辛抱なんてしませんよ。」
「ふうん。偉いな。」
「兄さん思いの良い弟として儒教的価値観に合致しているってことですか?」
「そういう形骸的な評価方法じゃなくて。ふつうに人として偉いと思った。儒教ってもともとそういうもんだったんだろうと思うけどな。ふつうに人として偉いってことを大事にするという。今どきの世の中は――」
言いさしてコンコンと咳き込んだ。
「――忠とか孝とか言い過ぎ。」
「隊長はコンコン言い過ぎ。」
批判されたと思ったらしく、口に手を当てて咳をおさえようとする。
「なにやってんですか。べつに健康なふりをしろって言ったわけじゃないんですよ。」
口から手を外してへらへらと笑う。本当に馬鹿だ。



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