三十五、渡河(5)

「あ! もしかして、自分が隊長のことを特別な配慮が必要な病弱な人みたいに扱ったことが気に入らないってんですか?」
「いや、気に入らないっていうか、もしみんなにそういうふうに心配かけちゃってるとしたらもう現場仕事は務まんねえかもしんねえなと思って悩んじゃった。」
「そんなもんマジに心配してるわけないじゃないですか。同行を申し出たのはクソ暑っちいから午後の訓練抜けてこっちで水遊びしてやろうって魂胆こんたんなんですよ。ただ馬鹿正直にそう言ってお願いすると不真面目な兵隊みたいに見えそうでイヤだから隊長のことを心配している可愛い兵隊みたいなツラして同行を断らせまいと画策かくさくしたわけです。」
「なんだ。そうだったんだ。ああよかった。へっへっへ。なんだよそういうことかよ。だったら最初っから素直に水遊びしてえって言ってくれりゃあいいんだ。」
「え~、最初っから素直にそう言ったら、同行を許可してくれましたあ?」
「ありえねえ。ふざけんなっつって言下に退けるな。ひゃっひゃっひゃっ。」
やれやれ。やっとご機嫌が直った。ずいぶんと細かいことを気にする奴だ。

 時間をかけたわりには村人の言ってくれたことは何一つ参考にはならず、結局張屯長と黄屯長が自分達で川に入って確かめることとなる。川辺に至り、水面を眺めながら、隊長はおずおずと
「場所を変えてみる気、ねえの?」
と屯長達に訊ねた。
「川幅の狭いとこってのは、周りの水がぎゅーっと集まってて流れが速かったり、急に深くなってたりしそうじゃねえ? それと、土地の人がちょくちょく歩いて渡ってて様子の分かってるとこのほうが安全じゃねえか?」
「簡単に渡れる場所を選んだらいい訓練にならないじゃないですか。」
「隊長~、怖がりすぎですよお~。いいじゃないですか、隊長が渡るわけじゃないんですから。我々これからちゃあんと長い棒をつっこんで水深すいしん計りながら渡ってみますんで。危ないと思ったら引き返しますよ。」
「あっ、自分それやります! 尖兵せんぺい!」
「季寧は隊長が具合悪くならないか見張ってる係だろ。」
「おれ大丈夫だから三人で行ってこいよ。もし万一水流激しい所に踏み込んじゃった場合は三人で支えあったほうが安定するから。」
「穏やかな川じゃないですか。怖がりすぎですよお~。」
お気楽な調子で言いつつも、張屯長は半ば呆れている様子だ。俺も同感だ。ほんとに気の小さい野郎だよ。万事においてそうなんだから、嫌気がさす。



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