三十五、渡河(2)

張屯長がおずおずと黄屯長に言った。
「隊長は無理して渡ってもらわなくてもいいんじゃないかな。」
「なんで。」
「隊長、無理させるとまた喘息になっちゃうからさあ。」
隊長が他人事のように笑う。
「ギャハハハ、ダッセー。なんか、特別な配慮を必要とする病弱な人みてえ。」
「隊長は特別な配慮を必要とする病弱な人なんじゃないんですか? 自覚して下さいよ。」
俺が言うと、張屯長はウンウンと頷いたが、実態を理解していない黄屯長と隊長は二人してゲラゲラと笑った。張屯長が珍しくへりくだった口調で言った。
「許可だけ出して頂ければ自分らで全部やりますけど。隊長はご無理なさらず遠巻きに眺めていて頂ければ。」
「去年の花見に続いてまたしても張さんに企画実行一任?」
「そういうことです。」
「で、俺はなんかあった時に将軍になっとらんって怒鳴られる係?」
「そういうことです。」
「ふうん。じゃあそれでいこっか。今回は黄屯長と組んでやって下さい。よろしくお願いします。」
「ヤッター! 水遊び~!」
飛び上がって喜ぶ張屯長。水遊びじゃなくて訓練だろ、というツッコミを入れもせずにニヤニヤと見守る隊長。
「隊長も一回ぐらい川を渡ったほうがいいと思うけどなあ。」
と一人でぶつくさ言っている黄屯長。こんなガキみたいな人らに生殺与奪の権を握られているのか、俺は。
「じゃあ黄屯長と張屯長は明日朝から河の様子を見に行って、渡河点と方法を決めて晩飯までに俺に連絡して下さい。」
「ハイッ、かしこまりました~。」
くるりと回って黄屯長の手をとり躍りながら出て行く張屯長。浮かれすぎだろう。

 翌日、黄屯長と張屯長は昼の休憩時間にさっそく計画を伝えに来た。
「いい場所見つけましたよ。」
「素早いな。」
濂水河れんすいがを渡ることにします。柳元村りゅうげんそんの近くに川幅が狭くなっている場所があるので、盾をかざして数陣すうじんを組んで渡ります。対岸に敵がいるという想定で。」
「おお~、怖え~。対岸真正面からビシバシ矢が飛んでくる中をぬるぬる滑る石に足を取られながらビショ濡れになって渡るってかい。生き地獄だなあ。」
愉快そうにニヤニヤ笑っていると思ったら、ふと表情を曇らせた。



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