三十五、渡河(15)

 みんなして血相変えて探し回る。隊長のやつ、俺らを放っといてどこで油を売ってやがるんだ。と思ってキョロキョロしてみたら、下流の橋の下にたたずんでいる隊長を発見した。向こうからもこちらの慌てふためいた様子が察せられるらしく、憂わしげに水面を眺めている。普段の隊長の感じからすると、こういう時には自分も水にじゃぶじゃぶ入って一生懸命探しそうな気もするが、今日は川岸にじっとしたまま暗い表情でたたずんでいるだけだ。そこまで水に濡れるのが怖いのだろうか。っていうか、遠くから黙って見てないで、こっちに来て黄屯長にどうしたんだって聞くとか、なんか指示出すとかするべきなんじゃねえのか。職場放棄かよ。ねるにも程がある。と思ってガン見していたら、ついっと反対側を向いて行ってしまった。
 俺はムカムカと腹が立ってきたので、後ろにいた李叔遜りしゅくそんを振り返ってからんだ。
「あのオッサンなんなんだよ。」
「誰?」
「隊長。あっちから見てやがんのに傍観してやんの。なんなんだよ。こっち来いよ。働け。」
「こっちに向かって来てんじゃん。」
叔遜の指さすほうに向きなおると、おや、本当だ。隊長が二人の若者を引き連れてこっちに向かって来る。その二人の若者ってのは、行方不明中のりゅうこうとう周子宣しゅうしせんじゃないかよ。なんなんだよ。手品か。
 みんな公統と子宣を見つけて歓声をあげて走って行く。俺は狐につままれた気分だ。二人は濡れたらしく衣類を脱いでおり時々頭をゴシゴシと拭いている。黄屯長が隊長に向かって
「どうぞ首を斬って下さい。」
と言ったのと、俺が馬鹿丸出しで
「ちょっと、なんの悪ふざけですか? 手品で二人を隠しておいて、あたかも自分が正しかったかのように見せるなんて!」
と叫んだのと、ほぼ同時だったと思う。隊長は眉間みけんに皺を寄せながら
「手品?」
と聞き返したと思うと、ゲラゲラと笑い始めた。
「ギャハハハ、それウケる! 俺が黄さんの鼻をあかそうとしてわざと手品で二人を隠してみんなをびっくりさせようって企んだってわけか? ギャハハハハ。」
「そうとしか考えられませんよ。だって、どうしてそう都合よく行方不明になった二人を連れて帰って来たんですか?」
「なんも安全対策してくんねえから危ねえなあと思って勝手に柳元村りゅうげんそんの人たちにお願いして下流で見張ってた。」
「え~、性格わるっ! そんなもん、勝手にチマチマやってないで、黄屯長にガツンと言ってなにがなんでも対策とらなきゃやらせねえって言えばいいじゃないですか。なんなんですか? 部下に正面きってものが言えないんですか?」
「だって黄さんちっとも俺の言うこと聞いてくんねえんだもん。あのまま押し問答してお互いカッカしたらマジにぶった斬るしかねえと思って逃げてやった。」



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