三十四、最強戦士(6)

「なんか意外~。異度くんは張車騎のことが大好きで親衛隊にいたんじゃないのオ?」
「いえ全然。できれば十里以内には近付きたくないです。」
「ふうん。それ本心?」
「ま、愛憎こもごもです。」
「アハハハ、やっぱ大好きなんじゃない。」
「そういえば、極端にいじめられ過ぎるとその相手と同化しようとする反応が起こるものらしいですね。」
「異度くん張車騎と似ても似つかないじゃない。」
「張飛の野郎、そのテの心理効果を利用して兵隊を鍛えようって魂胆だったのかもしれねえな。」
隊長は独りごとっぽく言った。
「勇将の下に弱卒なしかよ。ケッ。」
本当に憎たらしそうに言う。
「なにその恨み骨髄みたいなの。」
「おっと、自分の世界に入り込んでました。」
へらへらと笑う。と、思ったら、ふうっと溜息をついてしみじみと言った。
「張車騎が范疆はんきょう張達ちょうたつに殺害された時は、私十日間くらいずっと泣いてたんですよ。とうとう自分の手で野郎をぶち殺せなかったなって。」
「え~、それ冗談?」
隊長は再び自分の世界に入り込んだように無言でお茶を飲む。李隊長は韓隊長の顔を見ながら勝手にウンウンと頷いている。
「今日はずいぶんいろいろと話してくれるんだね。」
「あまり人と会わない日が続いたもんで、人恋しさから饒舌じょうぜつになってるんですよ。」
「そっか。俺のことが恋しかったんだ。」
「え?」
隊長はきょとんとした顔で李隊長を見たあと、当惑げにへらへらっと笑った。たぶん「いえ違います、人恋しいって言っただけですよ」とキッパリ否定したら角が立つからあいまいに笑って済ませたんだろうが、俺ははたから見ていてその微笑み危ねえなと思った。李隊長がもし相手の反応を自分の都合がいいように解釈する心理傾向があるとしたら、「俺のことが恋しかったんだ」という問いに対して隊長がニコッと笑って肯定したように見えてしまったかもしれない。危ないです、隊長。折りに触れて確実にキッチリと脈がないことを示し続けないと。一瞬の油断が命取りになりますよ。ま、相思相愛なんだったら放っとくけどさ。



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