三十四、最強戦士(5)

「そういうことだったらさあ、立ち合いとかやるの危ないんじゃないのかなあ。」
「さっきそこにいる若者にも全く同じ指摘を受けました。」
「昔からそこ弱点?」
「いえ全然。普通に万人共通に急所であるっていう以上には何もないです。」
「じゃあなんか疲れがたまって体力落ちてたとかそんな要因かな。」
「年なんじゃないですかね。」
「アハハハ、なに言ってるの? 若いじゃない。」
「入営前は時々喘息出てたんですけど、十代半ば頃からピタッと出なくなったんで、あれは小児喘息であって成人したら二度と出ないんだろうなとタカをくくってたんですよ。そうしたら、意外にも三十過ぎてからまた戻ってきたんで、なんでえ喘息出ねえのは若くて頑健なうちだけかよ、とがっかりしました。」
なるほど、そういうことか。隊長はひどい喘息持ちなのにどうして兵役免除にならなかったのかと不思議に思っていたんだ。ふうん、喘息が戻って来たのは三十過ぎてからか。ちょうど隊長が什長になった頃だ。什長は下士官であって、兵卒とは扱いが異なるからな。
「若いじゃない。孫さんが言ってたよ、なんか、しみじみと。私はねぇ、彼の若さが羨ましいですよ、って。」
「十歳も違いませんけど。」
「十年は大きいよぉ。そしたら王さんが、若さと身長、って付け足してた。それオレ同感だね。」
言いながら隊長の頭のてっぺんから爪先まで舐めるように見る。
「オレ前から疑問だったんだけどさあ、異度くんはどうして刀盾手とうじゅんしゅになったの? ふつう刀兵って背の低い人が集まるよね。身長あったらげきに回されるじゃない?」
「入営した時はチビだったんですよ。」
「アハハハ、なるほど。軍隊の飯をモリモリ食って大きくなったんだね?」
ひげも生えてないような奴をとっ捕まえて兵隊にするのはやっぱり不都合だと思いますよ。背の順で編成しても後々規格外になっちゃうんですから。おかげでなんかわけのわからない親衛隊とやらに編入されてひどい目に遭いました。」
「へえ、そうだったんだ。じゃキミが張車騎の親衛隊にいたっていうのは、単に身長の問題?」
「そうです。それ以外には何もありません。」
「へえ。アハハハ。それは面白い話を聞いたなあ。自ら望んでそこにいたわけじゃないんだ。」
「望むわけないです。地獄ですよ。毎日張飛を殺すことばっか考えてました。」
「エ~? それ問題発言。」
「実は一回反乱を起こしたんですよ。親衛隊全員一丸となって。でもあっという間に鎮圧されて事件にもなりませんでした。それも張車騎たった一人の手で。」
俺は思わず声をあげた。
「隊長や鍾師範しょうしはんみたいな人たちが束になってかかったのに、あっという間に一人で鎮圧されたんですか。じゃ張車騎っていうのは本物のバケモノですね。」
「そ。あれは絶対人間じゃない。」
う~ん、俺は隊長のことを人間じゃないと思ってるんだけどな。俺は張車騎がいる時代の兵隊じゃなくて幸運だった。



《広告》
ページ公開日: 最終更新日: