三十四、最強戦士(3)

 その後、二日二晩のあいだ隊長は一睡もできなかった様子だ。三日目には座ったままうとうととまどろんでいた。どうにかまともに会話できるようになったのは五日目のことだ。喉元過ぎて熱さを忘れちゃった様子でルンルンと小豆あずきでて遊んでいる。…………。
「あのお、もうちょっと気を付けたほうがいいんじゃないですかね。」
「うん、もうちょい足し水しとこう。」
「いや、小豆のことじゃなくて。」
「えっと、なんだっけ。」
「なんだっけじゃないですよ。喘息。」
「ご迷惑おかけしました。部屋で大人しく遊んでるぶんにはもう大したことないと思うんだけど。」
「じゃあもう一生大人しくしてたほうがいいんじゃないですか?」
「えっ!」
「いや、あの、べつに引導いんどうを渡そうってわけじゃないですよ! そんな落ち込んだ顔しないで下さいよ。」
「ああ~、びっくりした~。三十代半ばでこれから働き盛りという矢先にまさかの死刑宣告かと思った。」
「いやいや、せいぜい長生きして欲しいと思ってるんですからね。隊長がうっかり百まで生きた挙句耄碌もうろくして介護してくれてる孫の嫁のケツでも揉んでる姿を見てやろうと思って楽しみにしてるんです。」
「俺が百ならお前は八十八か。ご長寿だな。おめでとう。」
「ずいぶん気が早い祝福ですね。そうじゃなくって、立ち合いは危ないですよ。打撃をこうむる度に喘息になってたら命にかかわりますよ。」
「そりゃまあ危ないよね。殺し合いの練習してんだもん。でも打たれる度に喘息ってことはないよ。」
「胸周り危ないんじゃないですかね。そこは弱点だから狙うなってことにしとかなきゃだめなんじゃないんですか?」
「え~、ふつう弱点こそ狙うもんじゃねえの? だって俺みんなに俺を殺せっていつも言ってんじゃん?」
「そんなに死にたいんですか?」
「いや、できれば生きたまんまみんなと一緒に幸せになりたい。」
「じゃ素直に『お願い! 殺さないで!』って懇願しとかないと。」
「ギャハハハ。」
「いやギャハハハじゃなくて。」
「結構なことじゃねえかよ。俺を殺すくらいの根性がある奴なら大抵のことは成し遂げるだろう。」
「何が結構なんですか? ふざけないで下さいよ。中道でたおれたら司馬懿を殺す計画はどうなるんですか?」
「俺を殺した奴には呪いがかかるようになってるんだ。司馬懿を殺すかそいつが死ぬか、どちらか達成されるまでやめられねえってわけ。」
「まさかそんな魂胆でいっつも俺を殺せって言ってるんですか?」
「世界の半分くらいは呪いの連鎖で動いてるんだぜ。」
ニヤリと笑う。なんなんだよ、この悪党め。命は大事にしなきゃだめだろ。



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