三十三、密命(7)

「まあ決まりはそういうことになってるけどよお、二人一組で外出許可もらって、門を出てから帰るまでクソ真面目にずーっと二人一緒に行動する兵隊がどこの世界にいるかよ。」
「ま、そりゃそうですけど、それ部曲督の立場にある人が兵隊に向かっておおっぴらに言うことじゃないですよね?」
「俺は柵の中に起居している一人の人間として、一緒に外出してきた相棒に向かって言ってるんだ。常識的に考えて、ここは別行動でしょ。」
「でももし万が一事故でもあったらどうするんですかあ?」
隊長は俺が腰を捕らえている腕を外しながら、優しげな声で
「大丈夫。季寧のことを信頼してるよ。もし万が一時間に戻って来なかったらご家族をとっ捕まえて来る前にちゃあんと季寧を探すから。」
と言って俺の両手をきゅっと握ってニコッと笑った。キモっ! と思ってひるんでいる隙に、
「もし俺が時間に戻って来なかったらおまえ一人で先に帰って、ちゃんと一緒に行動してたのに急に煙になって消えちまったって陳屯長に報告しときな。きっと信じてもらえるぜ。じゃあな。」
と言い捨てて脱兎のごとく南鄭城なんていじょうめがけて走りだした。速っ! うわ速っ! あきれている場合ではない。大慌てで追いかける。みるみる引き離されていく。なんなんだよ……。ぜったい人間じゃないだろう。

 城外の朝市はようやくいくつかの店が開き始めたところだ。隊長を完全に見失った俺はゼエヒイと肩で息をつきながら呆然と辺りを見回している。そんなに広い場所ではない。しかしごちゃごちゃとしているから、一人の人を見つけ出すのは一苦労だろう。
 おろおろと迷子の子供のように歩きまわる。こんな暗い時間に、都会の朝市なんかに一人で来るのは初めてだ。土地勘がないから心細い。ぽんぽんが痛くなりそうだ。変な汗かいちまった。ふと横を見る。活きのいい犬、魚、鳥。ここは愛玩動物を売る場所なのか食材を売る場所なのか、どっちだろう。籠に入った可愛い仔猫ちゃんもいる。まさかこいつも食用なんじゃあるまいな。ぽんぽんが痛くなってきた。便所はどこだろう。
 野菜や果物の売り場に至る。果物の山の向こうに座っている、お姉さんと呼ばなきゃ怒りそうな年恰好のちょっとべっぴんな感じのおばちゃんに
「御手洗いはどこですか?」
と訊ねたら
「御手洗い?」
と笑われた。
「便所はあっちの角だよ。ずーっと行ったら小汚い板が立ってる横に溝があるから。」
ふうん、見た目は小綺麗なのに言葉づかいは小汚いおばちゃんだな。ま、いいけどさ。



《広告》
ページ公開日: 最終更新日: