三十三、密命(14)

「三十年後まで計画立てるのは勝手ですけど、隊長あと五年で死ぬんですよね?」
「えっ、なんで?」
「なんで、って、前に自分で言ってたじゃないですか。寿命はあと五年しかないって。」
「それは寿命はあと五年しかないというくらいのつもりでせっせと頑張るって話だろ。」
「そんなにせかせか働いててあと三十年ももつんですかあ?」
「別に自分が三十年まるまる参加する必要はないよ。共通の目標に向かって各々おのおの自分の参加できるところをやるわけ。」
「それ一体誰がまとめてるんですかあ?」
隊長は答えずニマニマしながら五、六歩あるいてから、こう言った。
「一つ怖い話を聞かせてやるよ。」
「怪談ですか?」
「下手すりゃ首が飛ぶ話。」
「飛んでった首が一回りしてまた胴体にくっついて何事もなく生き返ったら本物の怪談ですけど。」
「みんなそういう話、好きだよなあ。」
苦笑いをする。市場の喧騒を抜けて、露に湿った土を踏んで歩きながらもやの向こうのけの明星みょうじょうを見る。
丞相じょうしょうが仕官する前、隆中りゅうちゅうで隠棲してた頃の話だ。あの人は臥龍がりょう先生とか呼ばれながら梁父吟りょうほぎんっていうへんてこな歌をちょくちょく歌って過ごしてたんだけど、その歌の歌詞がどんな内容か、知ってる?」
「知るわけないス。」
「面白い昔話だぜ。ちょっと歌ってやるよ。」

歩出斉城門 遥望蕩陰里
(してせいの城門をはるかに蕩陰とういんを望む)
里中有三墳 累々正相似
(里中りちゅう三墳さんふん有り 累々るいるいとしてまさたり)
問是誰家墓 田疆古冶子
(いえの墓ぞ 田疆でんきょう古冶子こやし)
力能排南山 又能絶地紀
(ちから南山なんざんはい地紀ちきつ)
一朝被讒言 二桃殺三士
(一朝いっちょう讒言ざんげんこうむ二桃にとう三士さんしを殺す)
誰能為此謀 国相斉晏子
(たれはかりごとす 国相こくしょうせい晏子あんしなり)

「歌うまいっすね。で、これどんな昔話なんですか?」
「むかしむかしせいの国に、やたら勢力を持って傍若無人に振舞ってる士が三人いてね、彼らが国の安定を揺るがすんじゃないかって宰相の晏子あんしが心配したってわけ。そんで、晏子が桃を二個用意して、三人の前に差し出して、三人のうちで功績が大きいと思う者がこの桃を取るがよい、って無茶ぶりして、お三人はめに揉めた挙句、三人とも死んじゃったそうな。二個の桃を取り合いさせて三人とも抹殺しちゃうなんて晏子ってのはスゲエ人だな、って話だ。」
「ふうん。それが怖い話ですか?」



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