三十三、密命(13)

「鬼。悪魔。人でなし。」
「戦争が終わっていい世の中になれば、俺も善人になれるかもしんねえぜ。」
「そんな世の中は来ませんよ。隊長は死んでも人でなしのままです。」
「ギャハハハハ。夢も希望もねえな。」
「いっそスッパリ軍人やめて足を洗えばいいじゃないですか。」
「ま、いつかはやめるよ。百年以内にはね。」
「それしてのちむって言ってるのと同じじゃないですか。」
「百年も待つ気はないけどな。三十年以内には終わらせようぜ。」
「終わらせよう、って、そんな計画的にいくわけないじゃないですか。」
「計画立てなきゃ千年あってもなんにもできねえぜ。まず最初にケツを決めるんだよ。三十年以内にこれをやる、って決めたら、じゃあ十年以内にはここまで行ってなきゃいけねえなって分かるじゃん? そしたら今後五年間で何やっとけばいいか見えるから、じゃこの一年間はここを目指そう、とか、この一カ月間はここに重点置こう、とか計画できるわけ。そうやって逆算してやってくと、今日一日何を頑張ろうかなってのも分かるぜ。」
「で、そうやって一日の計画を立てた結果、しょっぱなにまず豆乳飲んどこう、って段取りになったわけですね。」
「そ。そういうこと。」
まんざら冗談でもないというようにニコッと笑った。
「なんかやろうと思ったらまず心身の状態をよくしておかないとね。」
「このあいだ何か意地はって喘息になってたじゃないですか。」
「そうそう、計画を立てる際は、途中でなんか故障や停滞があるかもしんねえなってことも見込んで計画立てるんだぜ。あんまギチギチにやってると計画倒れで終わっちゃうから。有効に使えるのは十日のうち三日ぐらいしかねえってくらいでちょうどいい。」
「はあ? そーんなのんびりした計画で、三十年以内で天下泰平になるんですかあ?」
「なるよ。みんなが本気で取り組めばね。っていうか、もし世界中の人が一人残らず本気で天下泰平を望んだら、今この瞬間にでも実現するんじゃねえかな。もっとも、全員がいちどに同じことを考えるなんてことはありえねえ。もしそんなことがありうるとしたら、そりゃ宗教か集団催眠か、あるいは人類の終焉を告げる恐ろしい伝染病かなんかだろうな。」
「みんながバラバラのことを考えてるのに三十年でできるんですか?」
「十人のうち三人ぐらいが本気になって力を合わせて取り組めば充分可能だよ。いま天下のうちでそんなことをマジに考えてる奴は十人に一人いるかいねえかだろうけど、残りの九人をびっくりさせるようなことをポンポンやってけば仲間は増えていくよ。いっしょにやろうぜ。」
「はああ? そんな楽観的で夢みたいな馬鹿げた計画に乗れるわけないじゃないですか。」
「俺は夢想家の馬鹿だけど、計画を立てて行動する馬鹿なんだ。」
「行動力のある馬鹿ほどやっかいなものはない。」
「ま、好むと好まざるとにかかわらず、君は組織上おれの計画に乗らざるを得ないわけだけどな。」
「不自由な身の上ですからね。いつか機会を見つけて離脱しますよ。」
「へえ。骨のある奴だな。」
愉快そうに笑っている。なにが可笑しいのだろうか。



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