三十三、密命(11)

「それが嫌なら結婚資金の足しに。はい、さっさとしまって豆乳飲も。ここのは旨いぜ。」
硬貨の束をしまって店の横にある簡単な席に座って豆乳を飲む。あ、ほんと旨い。なんか、豆が濃い! 甘くないやつなのに、あっま~い! ああ~、なんだこれ! 旨い。旨すぎる! 隊長は俺の旨そうな顔を見て満足げに笑っている。
「……これで作った豆腐は、さぞ旨いでしょうねえ。」
俺がうっとりとつぶやくと、豆腐屋のおっちゃんはウンウンと頷きながら
「旨いよお。たまには豆腐も買ってけって言ってよ。」
と言って隊長のほうを顎でしゃくった。
「季寧、豆腐食いたい? じゃ好きなだけ買ってけよ。なんか作ってやるよ。」
「エエ~、やったあ! じゃ剣閣けんかく豆腐つくって下さいよ。このあいだ素通りして、名物料理食べなかったじゃないですか。」
「剣閣豆腐っていう料理はないぞ。剣閣では豆腐が名物で豆腐食が盛んだって話だろ。じゃ、剣閣の人が好きそうな山椒ドッサリのしびれる豆腐料理にしよっか。」
「やったあ! じゃここからここまで全部。」
「それ欲張り過ぎ。他のお得意さんが困っちゃうだろ。」
「じゃとりあえずここらへんまで。」
「欲張り過ぎじゃねえ? ま、いいけどよ。」
隊長と豆腐屋のおっちゃんに笑われながら大量の豆腐を買う。わ~い、ヤッター! おとうふ大好き~! ああ楽しみだ。ルンルン。

 豆腐屋を後にし、葱や肉など、必要な食材を買いに行く。隊長は必要なものを買うために市場を回るというよりは、食べ物を眺めて歩くのが好きなようだ。ぶら下がっている燻製を指さして
「あっ旨そう!」
とはしゃいだり、長芋についている土の匂いをクンクン嗅いだり、かぶを眺めて
「惚れ惚れするようなきれいな葉っぱだねえ。」
とうっとりしたりする。挙動不審だ。ま、いいけどさ。さっきまでの心細さが嘘のようだ。土地勘のある人について行って目的のある買い物をするのは楽しい。それに、いちいち
「立派なねぎだなあ。」
とか褒めながら買うから気分がいい。お店の人も親切だ。
 ああ、なんか、美味しそうな食材が揃ったな。これで料理したら絶対旨いでしょ。ルンルン。隊長がにこやかに
「さて、そろそろ帰ろっか。」
と言いながら市場の出口に向かって歩きだした。おっと、買い物があんまり楽しすぎてうっかり任務を忘れるところだった。俺はおもむろにさっきもらった五銖銭の束を取り出して、
「はい。」
とぞんざいに隊長に押しつけた。
「いらねえ。」
これは押し問答になりそうだ。俺はチッと舌打ちをした。



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