三、おもてなし(2)

 隊長は楽しげに膳の上に皿を並べている。また趣味の料理にいそしんでいたらしい。薄気味悪いので見つからないうちにそっと逃げ出そうと後ずさる。折悪しく隊長が顔を上げ、ばっちりと目が合った。
「お、ちょうどいい所に、じゃなかった。お前休憩中か。」
「え、何かご用でしたらどうぞ。」
「いやいいよ。ご放念下さい。」
「ご放念ってなんですか?」
「気にしないでってこと。」
「はあ。」
と、俺をシカトして部屋を出て行こうとする。
「お使いでしたら自分行きますけど。」
「いいよ。休憩中だろ。自由に遊んでろよ。」
と、俺をシカトして歩いて行く。
「どうせヒマですし。行きますよ。」
「趣味とかねえの?」
「えっ……。」
「ま、そりゃ個人の自由だけど。休憩中の奴を使うのは筋が通らない。」
「なに堅いこと言ってんですか。」
「マブダチでもあるまいに。ウザいぜ。せな。」
「それがやる気満々の勤務兵に言う言葉ですか。」
「ごめんね。俺口悪いんだ。」
しゃべっているうちに目的地に到着。それは営舎のとある一室、我が戦友達はすやすやと健やかな寝息をたてている。そのうちの一人、李仲毅りちゅうきという奴の耳元にそっと顔を近寄せ、隊長は不気味な小声で呼びかけた。
「おはようございまーす。」
友達がふざけてやっているとでも思ったのだろう、仲毅は目を閉じたままうっとうしげに眉を ひそめた。
「やめろよ。」
「へっへっへ、休憩中ごめんね。」
下品な笑い方にピンときたらしい。仲毅はパッチリと目を開けた。
「あ、失礼しました。」
「こちらこそ。君さっき城壁に登んの一番早かったじゃん? で、よかったら約束のご褒美もらいに来ないかなーと思って呼びに来た。」
「わざわざ恐れ入ります。喜んで伺います。」
今度は仲毅の上官の秦什長しんじっちょうの耳元に囁く。
「秦什長ー。」
「……はい。」
「ちょっと李仲毅借りてきまーす。」
「はい、いくつでもどうぞ。」
「ギャハハハ、寝ぼけてやんの。いいや、行こう。」
什長が起きてから、李仲毅がいねえ、って慌てるかもしれないが。



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