二十九、弱卒(8)

「精神を鍛え直してくれる! とか言われなかったんですか?」
「言われないよ。優しくなだめたり励ましたりしながら丁寧に酷使されたな。」
「うわぁ、なんか、面倒くさい兵隊ですねえ。」
「精神力ばっかりは鍛えて強くなるってもんじゃねえからなあ。挫けてる奴に、挫けるな! 負け犬! クズ! 貴様それでも恥ずかしくないのか! なんてはっぱかけてもさあ、はい。クズです。負け犬です。って、ぐずぐずっと腐ってっちゃうだけなんじゃねえの?」
「隊長、腐ってないじゃないですか。」
「だからさ、優しく宥めたり励まされたりして生かされてるわけ。」
「え~、なんか、面倒くさい人っすね。」
「誰でもそうだろ。人間なんか、放っとけばすぐ死ぬよ。誰かに大事に扱われたら、自分でも自分のことを大事だと思ったり、そうとまでは思えないとしても、とりあえず大事にしてくれた相手のことをそう簡単に裏切れねえなと思ったりして、そうやって生きてくもんなんじゃねえかな。」
「ふうん。なんかよく分かんないすけど。」
「だからよお、季寧も俺様のことをせいぜい大事にしろよ。」
「え、いっつも大事にしてるじゃないですか。」
「あっそ。」
「まさかとは思いますけど、隊長の好きな人ってまさか俺じゃないでしょうね?」
「違います。」
「なんで丁寧語で答えたんですか? なんか怖えな。」
「その線はありえませんからご安心下さい。」
「李隊長にもそうやってキッパリお断りを言っといたほうがいいんじゃないですかね?」
「あの人、断っても断っても、なんかちっとも通じないんだよなあ。」
「いつもニコニコいい顔して相手してるからですよ。怖い顔して追い返せばいいじゃないですか。」
「う~ん……。」
「それが嫌なら、さっさと女の人と結婚するしかないですよ。今回の大声大会みたいなことだって、隊長がいつまでも独身でいるから興味本位でいじられるんじゃないですか。なんでのんびりしてるんですか?」
「なんかさあ、明日をも知れない兵隊稼業だと、結婚に二の足踏んじゃわねえ?」
「え~、隊長がそんなことじゃだめじゃないですか。率先して結婚して見せないと。みんなに結婚しろとか言えないじゃないですか。」
「そこは陳屯長にお任せしといて、俺は楽させてもらおっと。」
「エエ~。っていうか、隊長、兵隊稼業じゃないじゃないですか。指揮官ですよね?」
「おんなじことだろ。」
「同じじゃないですよ。」
そうだよ、同じじゃない。指揮官はいつ逃げるかを自分で決められるが、兵隊は自分では決められない。ヤバいと思ったら勝手にすたこらさっさと逃げちまうのはアリだが、その場合、最悪死刑になるかもしれないことを覚悟しながらやるわけだ。兵隊と指揮官は違うよ。友達みたいな顔していやがって、なんだと思ってるんだろうな。きっと、自覚がないんだろう。馬鹿のくせに俺達みんなの命を握っているっていうことに。



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