二十九、弱卒(6)

 薬を飲み終わってしばらくじっとしていたかと思ったら、おもむろに歩き始め、大声大会のほうに戻って行く。
「あのお、具合悪かったらもう休んだほうがいいんじゃないですかね? 常識的に考えて。」
何か言おうとして俺の方を向き、コンコンと咳き込んで話すのを諦め無言で歩いて行く。どう考えても大声大会どころじゃないだろう。意地っ張りめ。
 張屯長のほうを窺う。張屯長がおとなしく詫びを入れて隊長の参加をなしにしてくれれば、この場は丸く収まるだろう。折しも休憩時間終了し、張屯長はノリノリで司会を再開した。話しかける余地がない。隊長はゼーヒューいいながら黙って張屯長のほうを睨みつけている。隊長も、ほんと困った野郎だな。俺は困惑して王什長に絡んだ。
「あああ~、困ったなぁ~。」
「困ってんの?」
「困りましたよ~。だって隊長馬鹿すぎ。」
「隊長が馬鹿なのはいつものことじゃん。」
王什長は笑顔で呑気にこう言った。什長のこういうおおらかな雰囲気、好きだ。入営して以来、このゆったり感にどれだけ助けられたことか。今も什長ののほほんとした顔を見ていたら気持ちがスーっと落ち着いて、その勢いで陳屯長に報告に行った。
「陳屯長、隊長が喘息になりました。」
陳屯長は何が楽しいのか大声大会に夢中になっていてこちらの動きに気付いていなかったらしい。
「あそこに普通に座ってるじゃないか。」
「ふつうじゃありません。ゼエゼエコンコンいってます。大声大会どころじゃないですよ。」
「じゃあ大人しく参加をとりやめて休めばいいじゃないか。」
「陳屯長、この大会がどういう経緯で開催されたか知ってますか?」
「どうせまた隊長の思いつきだろ。」
「いえ、違います。張屯長が隊長の恋愛方面がどうなっているのか興味を抱いたもんで、それでこんな馬鹿げた企画を用意して、有無を言わさず隊長に参加を強要したんですよ。それで、隊長は怒っちゃって、怒り過ぎて具合が悪くなったんです。でも意地っぱりだから売られた喧嘩は買ってやるって思いながらあそこで怖い顔してゼエゼエいいながら我慢してるんです。」
「なんだと? ……あああ~、まったくもう! なんて馬鹿な連中だ! 聞いてるこっちのほうが具合が悪くなりそうだよ。」
両手で頭をゴシゴシと掻きむしりながら、陳屯長は張屯長のところにつかつかと歩いて行った。
「業務連絡!」
盛り上がっているところに分け入って有無を言わさず話し出した。
「今日、隊長は参加しないからな。」
エエ~! と、みんな無邪気に怒号を上げる。やっぱみんな興味あんのかな、隊長がどんな愛の言葉を言うのか。馬っ鹿じゃねえ。隊長のほうを窺う。参加中止なんて話は聞いてねえぞ、とでも言いたげに、ゆらりと立ち上がって陳屯長のほうを睨んでいる。本人は参加するかしないかなんて多分どうでもいいんだろう。面子メンツの問題だ。



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