二十八、音響兵器(5)

 ああ、また隊長、ニヤニヤして傍観していやがって、止める気ねえな。きっと最後の一兵まで戦わせる気だろう。最後列に至るまで、どのくらい時間かかるかな。日没までやっても終わんねえんじゃねえか。ああ面倒くせえ。棒で叩きあっているから、もし真剣だったら決定打になるであろうというような打撃が入った時点で次の隊員と交代するんだ。軍刀術の成果なのか、みんな防御が上手になっていて、互いになかなか攻撃が決まらない。それに、相手の足を踏んづけたり、盾でぶん殴ったりと、お行儀の悪い戦い方をしている。そして時々大声を上げている。なんて不様な連中だろう。こういう連中が目の前に現れたら、きっと敵の部隊は調子を崩してやる気を失うことだろう。俺いま味方として後ろから見てるだけでなんかイヤだもん。相手に不快感を与える戦法か。いかにもイヤミな隊長らしい悪趣味な演出だ。まあ、弱い俺達が勝つには、そのくらいの奇策は必要だ。
 俺達は弱いんだ。俺達は誇り高いからいつも自分達のことを精鋭と呼んでいるが、実態は、ふつうに徴兵してきた兵隊をふつうに鍛えただけの部隊だ。筋のよさそうな兵隊を選抜して編成した部隊だっていうわけでもないし、師範をつけて特別な訓練をほどこした強化部隊っていうわけでもない。ふつうに部曲督の裁量で練兵しているだけの、なんでもない部隊なんだ。
 でも、俺達は弱いんだろうか。前でお行儀悪くやり合っている連中の様子を眺めていると、弱いようには見えない。なんでもないふつうの部隊の連中が、こんなに闘志満々で力一杯やり合うだろうか。攻撃も防御も下手ではないし、動作もいちいち力強いように見える。俺は敵にも味方にも、こういう感じの部隊は見たことがない。しかも、隊長が督戦しているわけでもなく、ニヤニヤして傍観しているだけなんだ。力一杯やれって言われてないのに、なんで力一杯やってるんだろう。馬鹿じゃねえか。

 夜中になった。新年早々なにやってるんだろう。馬鹿じゃねえか。と思っていたら、将軍がぶらりとやって来て、隊長に声をかけた。
「新年早々なにやってるんだ。もう夜中だ。」
隊長はすっとぼけた返事をした。
「おっと、もうそんな時間でしたか。つい我が精鋭の姿に見とれてしまって時間を忘れてしまいました。」
ニヤニヤと笑う隊長の片頬を無言でぎゅーっと引っ張って、ニッと笑って将軍は帰って行った。おい! ギエン! バッキャロー! てめえ、なんでいっつもうちの馬鹿隊長を止めねえんだよ! 馬鹿かよ! クソッ! この無責任将軍!
 結局、夜明け前までずっとやっていた。ああ楽しかった。なんか、くたびれ過ぎて神経おかしくなったところに爽やかな夜明けが訪れたもんで、この馬鹿げた一夜の総括が「楽しかった」という的外れな評価になる。人間は物事を自分の都合がいいようにうけとめる習性があるんだ。困難が小さい時は困難をありのままに受け容れることができるが、あまりにも大きすぎる苦しみを強いられた時には、その出来事はあたかも美しい思い出であるかのように歪められて処理されるんだ。ああ……馬鹿すぎる……新年早々これかよ。トホホ……。



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