二十八、音響兵器(3)

 ……誰一人、微動だにしない。魂魄こんぱく吹き飛んだんじゃねえかな。
 おおおお~、怖えェ~! 怖すぎる! なんだ今の! 大声っていうより、発勁はっけい なんじゃねえかな? 体中で溜めに溜めたけいを、音に乗っけて飛ばすんだ。大地の気とか、そこらへんの空間を飛んでる精霊の気とか、そんなもんもぜんぶ乗っかってそうだ。そして、ぜったい張車騎が憑依ひょういしてただろ。
「なんですか、今の。発勁はっけいですか?」
「発勁? うん、そうだな。一種の発勁と言ってもいいと思う。」
「ふうん。張車騎は長坂ちょうはんで発勁術を使って敵の夏侯かこうなんとかという部将を落馬させて死に至らしめたんですね。」
「え~、それは普通に馬が音に驚いて暴れたから落馬して打ちどころ悪かったってだけなんじゃねえのオ?」
「あんな大声を出したのに、よく喉がおかしくなりませんね。」
「喉で出すんじゃないんだよ。」
仲純がおねだりする。
「コツを伝授して下さいよ。」
「いいよ。じゃ今日は大声を出す練習をする日にしよう。」
張屯長がぶうたれた。
「エエ~、大声大会はいつやるんですかぁ?」
「みんなが大声出すの上手になったらやろうぜ。」
仲純と張屯長は我が部隊の馬鹿の双璧だ。

 いつのまにか見物人が集まっている。きっとさっきの隊長の「燕人張飛ここにあり!」に驚いて様子を見に来たのだろう。隊長は見物人のほうをちらりと見てニヤッと笑ってから、コツを伝授しはじめた。
「じゃまず、立ち方ね。徒手格闘術の起勢の時みたいな自然な感じで立って。うん、上手です。で、呼吸。腹式呼吸。じゃまず声出さないで呼吸だけやってみよっか。はい吸って~、もっと吸って~、もおっと吸って~、はい思い切り吐く! うんうん、上手です。じゃもう一回、吸って~、もっと吸って~、もおっと吸って~、はい思い切り吐く! おい仲胤ちゅういん丹田たんでん呼吸じゃないぞ、腹式呼吸。下腹じゃなくてぽんぽん。ここ。そうそう。じゃもう一回、……」
なんか、息の吸い過ぎで具合悪くなりそうだ。
「じゃあ次はね、息吐く時にあ~って声出してみよっか。口思いきり開けてね、こんな感じ。んで、喉を開くような感じでな。はい、吸って~、もっと吸って~、もおっと吸って~、はい思い切り、あ~!」
あ~! あっ、これ気持ちいい~。
「はいもっかい吸って~、もっと吸って~、もおっと吸って~、はい、あ~!」
あ~!



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