二十七、徙民考(しみんこう)(5)

「曹操の撤退の仕方について、何か気になることでもあるんですか?」
「え? アハハハ、ごめん。全然違うこと考えてたよ。このお菓子の中身さあ、栗が丸ごと入ってるけど、餡のほうにも栗の粉が練り込んであるよね?」
「はあ? 知りませんよ。自分、甘い物には関心ないですもん。」
「異度くん、栗を磨り潰してなかった?」
「ああ、そういえば、なんか砕いて裏ごししてましたよ。」
「裏ごしってなに?」
「目の細かいザルとかを通すことなんじゃないですかね。舌触りがなめらかになるんじゃないですか。」
「ふうん。おいしい。あ、残り一個になっちゃった。異度くん怒るかなあ。」
「さあ。『おいしすぎていっぱい食べちゃったよ。ごめんね』ってかわいらしく謝っとけばいいんじゃないですか。」
「かわいらしく? アハハハハ。」
「あっ! 最後の一個まで食べちゃった!」
「異度くんが怒るかどうか見ものだねえ。」
「一つ残らず食べるなんて、非礼なんじゃないんですか?」
「非礼? 礼に非ず? アハハハハ。」
「言い方変えたり笑ったりしても変わりませんて。」
「彼、栗好きだよねえ。秋になると栗ざんまいじゃない? それで、勝栗かちぐりをいっぱい作っといて春先まで食べてるでしょ? 結婚したら新居に栗の木を植えてあげようかな。」
「ふつうに女の人と結婚したほうが世間体がいいと思いますけど……。」
「そうするくらいなら独身通しちゃおっかな。毎年ここで臘日を異度くんと一緒に過ごせるしね。」
「韓隊長がいつまでも独身だとは限りませんよ。」
「異度くんがどこかの女と結婚するなら仕方ないけど、もし他の男と結婚するって言ったら許さないよ。」
「なんだそれ?」
なんだかよく分からないことを言われて頭がくしゃくしゃしてきたので、ちょっと新鮮な空気でも吸いたいと思って慌てて外へ出ようとすると、ちょうど水を持って入って来た隊長とぶつかりそうになった。
「おっと。」
隊長は素早くよけたが、動いた拍子に持っていたかめから派手に水がこぼれた。
「ああすいません!」
慌てて雑巾を取りに走る俺を尻目に、隊長は悠然とかめを置き、水が床に広がって行く様を眺め、部屋の隅に置いてあった乾燥中の陳皮ちんぴの乗ったざるをおもむろに持ち上げた。俺がせっせと床を拭き始めてしばらくしてから、水はざるの置いてあった箇所まで到達した。隊長はひゃっひゃっひゃっと笑った。



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