二十六、遊び(8)

 その次の日には、障害物競走をやって遊んだ。まずは午前中いっぱいかけて競争に使う障害を作った。ほりを掘ったりやぐらを組んだり、かなり大がかりなものだ。ガッツリ土木工事だ。人が見たら、ぜったいに工兵の訓練だと思われるだろう。壕や山なら、ちょっと足を運べば訓練用の施設があるのだが、ごていねいにわざわざ一から作らされた。これも隊長の酔狂な趣味だろうか。
 工事が完了し、午後からかけっこをやって遊ぶ。百人ずつ一斉に、叫喚きょうかん地獄じごくのようになりながら障害を越えて全力疾走し、一番遅かった奴の所属している屯の連中が連帯責任で罰として歌って踊らされる。ふつう、こういう罰って腕立て伏せ何回とか、そういうしごきをやるだろうに。歌って踊るってなんだよ。ふざけやがって。みんなそんな恥辱は受けたくないので必死になって走る。これを申の刻半まで延々と、何回も何回もやらされた。ふつうにしごかれるよりも明らかにキツい。精神的に。

 翌日にはなんと、巨大迷路を作って遊んだ。隊長の野郎、ふざけすぎだ。よその部隊の隊長たちもちらほら見物に来始めた。こんな毎日遊んでばっかじゃ、ぜったい将軍に怒られるだろう。何を考えているのだろうか。
 こういう具合に、くる日もくる日も綱引きだのむかで競走だの、様々な面白企画で遊んで過ごした。隊長が楽しげに「今日はこれやって遊ぼう」と言うから、みんな遊びだと思って一生懸命やってしまうが――つまり、ふつうの訓練ならチビっと手抜きしてやろうと思うこともあるが、遊びだったら一生懸命やるということだ――正直、ふつうの訓練よりもよっぽどキツいじゃねえか、と、聡明な俺は早々に気付いていた。でも、遊びだったらつい一生懸命やってしまうんだ。軍隊には娯楽が少ないからな。

 一カ月が経った。毎日毎日めいっぱい動いているので、身体が毎日限界ギリギリだ。こういう感覚は久しぶりだ。軍隊に入って最初の一カ月が、ちょうどこういう感じだったな。
 隊長室に朝日が差し込んでいる。隊長が茶の煮える鍋に優雅に香辛料を振り入れている。ゆったりと上る湯気、漂う香気。のんびりしていやがって。俺は自分の筋肉痛の度合いを確かめるように腕まわしをしながら呆れて訊ねた。
「毎日遊んでばっかで、どういうつもりですか?」
「楽しいじゃん。」
にっこりと笑いながら二つの湯呑に茶を注ぎ入れる。
「よかったらどうぞ。」
「はあ。いただきます。」
俺はお茶なんてべつに好きでもないのだが、何故だか時々分け前を淹れてくれる。俺があからさまに不味そうな顔をして飲み下すのをニヤニヤしながら眺めている。気持ち悪い奴め。



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