二十六、遊び(2)

 仲純はこのあいだ、隊長が相手によって立ち方を変えていると指摘していた。ふうん。どこが違うのかな。足の爪先の向きかな。それにしても、遊びでやってるちゃんばらにもかかわらず、なんて隙のない立ち姿だろう。
「あのお、一つ質問よろしいでしょうか。」
「はい、なんでしょう。」
隊長は棒を下ろして直立不動の姿勢をとった。べつに殊更にあらたまった姿勢ではなく、隊長はふつうにちょくちょくこういう姿勢で立つんだ。仲純はちゃんばらを邪魔されたことを怒りもせずに、隊長を尊敬の念のこもった眼差しで眺めている。さしずめ、隊長が馬鹿の兄貴分で、仲純が弟分といったところだろう。
「おとといの鍾師範との立ち合いを見ていたら、けっこうすごい力でガンガン打ちあってましたけど、手首とか腰とか痛くならないんですか?」
「ならないよ。なんて言ってて、三日後とかに筋肉痛になってたらヤダな。お年寄りだからいつどんなことになるか分かんねえじゃん? ひゃっひゃっひゃっ。」
「ふうん。」
「季寧は力一杯なんかを叩いたらすぐ腰とか痛くなっちゃうだろ?」
「そうです。よく分かりますね。」
「分かるよ。だってお前ぐにゃぐにゃなんだもん。いつかどっか傷めやしねえかなぁと気になってたんだ。」
「え~、気になりながら放っといたんですかあ?」
「いっぺんに大勢見てるからさ、あっ、と思ってもなかなかその場で一人一人に言ってあげられない。んで、その場を過ぎるとなんか言うの忘れちゃうんだよなあ。」
「毎日一緒にいるのに。薄情だなあ。」
「じゃ今言っとこう。えっとね、じゃちょっとこれ持って、こっちを軽く叩いてみ。」
「はい。」
隊長の構える棒をふつうにスコンと叩く。
「うん。でさ、この手首、ぐにゃってのけぞってんじゃん? すると力がここの一点に集中しちゃうんだよ。そうじゃなくて、真っ直ぐ。」
手を添えて角度を直す。
「そんでさ、この肘は鋭角過ぎるんだ。で、こうして、脇はもうちょい閉める。すると刀からスーッとここまで一気に力が伝わってくるから。」
「はあ。」
「でさあ、膝、もうちょい曲げないとだめだな。ギャハハハ、違う違う。それじゃあジイさんみたいだ。そうじゃなくて、腰を落とす。うんうん、上手です。で、もうちょい背筋が伸びるとさ、刀で受けた力が足の裏まで一気に抜けてくから。」
「そうなんですか?」
よく分からないが。確かに、垢抜けた格好になっているような気はする。
「でさ、ここ思い切り押してやっても、」
言いながら俺の棒きれを手で思い切り押す。
「ぐらぐらしねえじゃん? 手首とか変に力入れなくても、支えられるだろ?」
「はい。」
「こういうふうだと関節傷めないと思うんだけどね。ま、軍刀術の時間なんかに、ここらへん意識しながらやってみて下さい。」
「はい。」
ふうん。一回言われただけじゃ身に付くわけないけど、ま、意識してやってみま~す。



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