二十五、鏡(7)

「おまえ御林軍の人らの前でもそんなしゃべり方してんの?」
「おう。馬鹿の見本だと思われてる。」
「ふうん。きっと御林軍のみなさんの良い反面教師になって格調高い近衛兵を作り上げるのに貢献しているんだろうな。」
「ギャハハハ。」
「さて、じゃ始めよっか。季栄きえい、時計に水入れて。」

 張季栄が時計に水を満たし、始め、と声をかける。両名はにわかに恐ろしい顔になり、すさまじい勢いで斬り合いを始めた。こんな速度で斬り合いをしている人間というのを見たことがないし、いちいち威力がありそうだ。ガンゴンと音を立てているガンとかゴンとかの一回の音ごとに一人の人間が一丈ふっ飛ぶのに充分だと思う。盾や木刀がぶつかる音を聞くたびにいちいち身がすくむ。人間技とは思えない。
 鍾師範が突然ふざけたようにくるっと回り、その隙に乗じて突きを入れる隊長を一回りした刀で斬ろうとするが、隊長の盾で肘をしたたかに打たれる。と、隊長の延髄を上から盾で叩く。う~ん、刀盾手の主要な兵器は、盾なんだろうか。そんな話聞いたことねえぞ。隊長はよろよろしながら
「死んじゃう、死んじゃう。」
大袈裟おおげさに騒いで、様子を見に近寄った鍾師範を木刀でぐ。
「卑怯者!」
「ギャハハハ。」
嬉しい褒め言葉をもらってご機嫌の隊長が刀で猛攻を加える。ことごとく防がれる。と思っていたら鍾師範の手元がちょっとずつバラバラと乱れてくる。
「死ね!」
合図とともに隊長の一太刀が鍾師範の胸骨を打つ。
「ゲッ。」
立ち竦む鍾師範の首を情け容赦なく狩りに行く隊長の刀を鍾師範が弾き飛ばし、
「てめえがくたばれ!」
の合図とともに隊長を素手で滅多打ちにする。隊長は鍾師範の足の甲を粉砕しそうな勢いで踏んづけて、向こう脛、膝周り、内腿、と下半身を中心に痛めつけ、鳩尾みぞおちを打って鍾師範がそれを凌いで安心している隙に必殺の壇中打ちでぶっ飛ばした。息もつかせず木刀を取り直し鍾師範の首を木刀で薙いで
「ハイ死亡!」
と言うが、まだ時計は三羽目の鳥がお辞儀をしたところだ。首を狩って調子こいている隊長の木刀を両手でガッツリ握って鍾師範が隊長をぶん回す。真剣だったらありえない技だ。おててが切れちゃいます。隊長はふざけてぐるぐる回りながらゲラゲラと笑う。と、不意に木刀を手放して、平衡を失った鍾師範に体当たりして倒し、馬乗りになって滅多打ちにする。鍾師範は関節技で隊長を引き剥がし、脇や肩まわりの痛い急所をドカドカと打つ。隊長は大袈裟に
「オエ。」
と苦しげな顔をすると、
「そういう小芝居やめろって。」
と叱られながら喉仏をしたたかに打たれた。マジに苦しむ隊長に鍾師範は情け容赦なく打撃を加える。無抵抗だと思って油断してかかる鍾師範の顔面を隊長が殴って両鼻から鼻血を出させ、仕返しとばかりに鍾師範の喉仏を打つ。鍾師範は怒気もあらわに隊長の人中周りを打つ。二回、三回と、鼻血が出るまで打ちつけて、両鼻から鼻血を出させると、鍾師範は自分の鼻血でゲホゲホと咳き込みながら満足げにゲラゲラと笑った。



《広告》
ページ公開日: 最終更新日: