二十五、鏡(4)

「何をいていたんですか?」
石蜜せきみつ。細かくしてお菓子作りに使う。」
「へえ……。」
「質問ってそれ?」
「いえ。」
「聞きづらいこと?」
「いえ。はい。」
「どっちだよ。」
「隊長との立ち合いで何でもありの格闘に精を出す一方で、子儀にきちんとした軍刀術を習うのは、矛盾しているのではないでしょうか。」
「矛盾しないよ。いろいろちゃんとできたうえでデタラメやるってのと、なんにもできねえからデタラメやるしかねえってのは違うじゃん?」
「ではそもそもどうしてデタラメをやる必要があるんですか?」
「実戦がそうだからね。作法にのっとってお行儀よくやるなんてありえねえじゃん? なんでもいいから相手を挫けば勝ちなんだよ。」
「ではいっそ軍刀術はいらないんじゃないでしょうか。」
「暴論だな。なにがしかの型は必要だと思うよ。なんにもなしで天才的なひらめきだけで動けってのは無理だろ。日頃なんにも練習しねえで運任せでめくらめっぽうやって上手く行きゃあ幸運、なんてのも気に入らねえ。」
「では当面は軍刀術に集中して、なんでもありは封印したほうがいいんじゃないでしょうか。」
「おれ平行してやったほうがいいと思ってる。型通りやることばっかりに凝り固まるのも危険だし、いつ会戦があるか分からないしね。もし今晩にでも突然どっかから敵が現れて急に戦わなくちゃならなくなったら、ぜったいデタラメのほうが役に立つもん。」
「うまく切り替えられますかね……。」
「大丈夫大丈夫、ほとんどの奴はなんにも切り替えなんかしなくても充分デタラメだから。危ないのは子儀くらいだ。あいつもあと二、三回非常識な方法でぶちのめしてやりゃあなんとかなるだろ。」
文彬ぶんひんは釈然としない顔をしている。
「軍刀術をみっちりやっちゃうのが不安?」
「いえ。はい。いえ。矛盾してるなあと思って。」
「矛盾してない人の見本を見たら納得するかな?」
「そうですね。軍刀術をみっちりやったうえでデタラメもできるっていう自分が想像できないんで。」
「あっそ。じゃ見本になってくれそうな人に声かけてみるよ。っつうかお手紙書こっと。」
言い終えるなりルンルンと墨を磨り始める。毎度のことながら思いついてから行動に移すまでが異常に素早い。
 文彬を帰して手紙を書き終えた後、隊長は文彬の上官のりょう屯長のところに行って、文彬が「はい。いえ。」とか「いえ。はい。」とか返事をする癖を直しておけと指示していた。いちいち細かい。



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