二十五、鏡(12)

 昨日俺が来客のために何か準備が必要かと訊ねた時には、特別な準備なんていらないようなことを言っていたのに、隊長はちゃっかりおもてなしの準備をしていた。鍾師範を部屋に入れるとちゃっちゃと酒肴を並べてさっそく
「再会を祝して。」
と乾杯を始めた。ああ、隊長の乾杯攻めか。これ始まると相手が倒れるまで終わらないんだ。これっておもてなしと呼べるのだろうか。鍾師範は嬉しそうにどんどん飲んでいる。
「しっかしよお、これ朝っぱらからいいのかあ? おまえ今日、一時いっときの十分の一しか働いてねえじゃん。」
「御林軍の師範といえば国の宝じゃん。そういう人を仕事そっちのけでおもてなししたって、まさか税金泥棒とは誰も言わねえよ。」
「これ公務なの?」
「いや、趣味。」
二人そろって愉快そうにゲラゲラと笑って乾杯する。
「俺ははるばる漢中まで乗りこんで来て、ダチとじゃれ合って拉麺食ってしれっと帰っちまっていいのか?」
「うん。将軍にはこういう奴が来ますって一報入れてあるけど、友達として個人的に呼ぶだけなんで自分のところで好きに遊ばせたらそのまま帰しますって言ってある。もし将軍に一言挨拶でもしときたい気があるんだったら将軍も喜んで会うだろうけど、どうする? どっちでも問題ないと思う。」
「じゃしれっと帰るよ。面倒くせえ。」
二人してひゃっひゃっひゃっと笑ってまた乾杯する。
「向こうには何て言って来たの? 出張報告とか要らねえの?」
「ちょいと遊びに行って来るっつってバッチリ休みとってきた。」
「一か月ドカンと休み? やるなあ。」
「自由人だろ?」
楽しげに乾杯をする。
「税金泥棒って言われちゃうぜ。ほされんじゃねえ?」
「月俸でやってるから一月ドカンと休んだほうが計算簡単なんだよ。」
「へえ、今月無収入。」
「さっぱりしたもんだろ?」
鍾師範が愉快そうに一人で杯を干す。
「それは申し訳ないことしたなあ。」
「俺が来たくて来たんだ。お前だって俺が来いって呼べば来るだろ?」
「うん、行く。ワンワンっつって尻尾振って行く。」
「おめえ尻尾なんかねえじゃねえかよ。いいかげんなこと言うな。」
ゲラゲラと笑いながら乾杯する。



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