二十五、鏡(1)

 月見をしてから数日後の朝だ。隊長が馬に雑草を食わせて遊んでいるところに王仲純おうちゅうじゅんがつきまとっている。
「相手によって立ち方変えてますよね。」
「知らねえよそんなの。」
「どうしてしらばっくれるんですか? 教えて下さいよ、秘密奥義。」
「ギャハハハ、なんだそれ。」
「なんだそれ、って、こっちが聞いてるんですけど。」
「おまえ基礎もなってねえのにそんな邪道なこと覚えてどうすんだよ。軍刀術なら周子儀しゅうしぎに教えてもらえ。あいつはちゃんとしてる。」
「でも、ちゃんとしてても隊長には勝てなかったですよね。」
「それは俺がちゃんとしてねえからだろ。」
「だからそのちゃんとしてないのを教えて欲しいんですけど。」
「大丈夫だよ、お前いまのまんまで充分ちゃんとしてねえから。」
「それ褒めてるんですか?」
「いや全然。おっ、そうだ。」
なにか思いついたらしい。憤然としている仲純をシカトして隊長が馬を厩舎きゅうしゃに戻してすたすたと歩いて行く。
 金魚のフンのように仲純と俺を従えながら隊長がぶらぶらと周子儀しゅうしぎに近寄って声をかける。
「おいす。」
「おはようございます。」
子儀は隊長の顔を見ただけで眉をひそめる。隊長はかまわずへらへらと話し始める。
「周先生に一つお願いがあるんですけど。」
「お願いですか? 上官なんだから命令すればいいじゃないですか。」
「お願いって言いつつ命令しちゃう? 気持ち悪いな、そういうの。」
「どっちでもいいですよ。なんですか?」
「軍刀術の師範って半月に一回しか来てくんねえじゃん? でもそれじゃあ上達しないから、周先生に指導をお願いしたいんですけど。」
「今だって隊長が毎日やってるじゃないですか。」
「一人で五百四人も見てると目が行き届かなくて非効率だからさ。子儀がもし何人かの生徒に隅から隅まできちんと基本を教え込もうと思ったら、いっぺんに何人見れる? 文字通り手とり足とりしながら完璧に叩きこむというつもりでさ。」
「十一人ずつ見ましょう。」
「十一人ね。で、やってくれる?」
「はい。断る理由がありません。」
「よかった。そう言ってくれると思ってた。」
へらへらと笑いながらぱんぱんと子儀の背中を叩く。子儀は不快げに眉を顰める。



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