二十四、賞月(7)

 隊長が指定した岬まで五里くらいはありそうだ。全力疾走で往復しても、一時いっときの十分の一より若干長くなるのではなかろうか。幼珪と文喜の生き地獄の時間がどのくらいの長さになるかは、屯のみんなの頑張り次第だ。
「はい、始め。」
張屯長以下五十四名が一斉に走り出す。隊長が真面目に棒と盾を構える。文喜は覚悟を決めて隊長に打ちかかった。さっき勇を鼓して「あの、時計は……?」と訊ねた態度を買われて、文喜が先に対戦することになったのだ。今日の立ち合いは、順番が早いほうが時計係がバテていないぶん時間が短く済むだろう。
 他の屯の連中は「先に月見してて」と言われていたが、月見どころではない。みんなして気の毒な生贄いけにえを見守る。隊長はいつも通り、至極まじめに相手を叩きのめしている。今日は木刀ではないから若干威力が小さい。盾をまともにぶっ叩いたら棒が折れたが、短くなった棒のままドカドカやっている。折れて先端が鋭利になっている方で突きを入れかけて、刺さりそうで危険だと判断したらしく急遽動作を変更して平衡を崩したところに文喜の打撃が入る。おおっ、と歓声があがる。隊長は棒の尖っていないほうで文喜の脇腹をぐりぐりと押す。
「イテテテッ!」
「おう、ここ痛いよなあ。じゃこっちは?」
「痛ってー!」
「お気の毒。」
ポカリと棒で打って間合いを取り直す。
 あの鳥の時計は便利だった。鳥が何羽お辞儀をしたかを見れば、残り時間が一目瞭然だからだ。今日はあとどれくらい生き地獄体験をするのだろうか。誰かが
「頑張れ!」
と声援を送った。
「ほら止まるな。動け。」
文喜は痛そうな顔のまま果敢に打ちかかる。ボカスカと隊長に叩きのめされる。
「ハイ、死亡。」
と言いつつも攻撃の手を止めずに痛めつける。
「ほら動けよ。何回死にゃあ気が済むんだ。」
屯の連中はまだ戻って来ないのだろうか。木立の中に目を凝らす。姿は見えないが、走る音がかすかに聞こえる。
「早く帰って来ーい!」
「頑張れー!」
走ってる奴らや文喜に向かって声援が飛ぶ。文喜は半泣き状態で隊長に向かっていく。この時間は、たぶん俺が「最悪だ。生き地獄だ。」と喚きながらやっていたあたりだと思う。ふらふらと向かってくる文喜を情け容赦なく打ち倒す。
「ほら来いよ。ぐずぐずしてっとブッ殺す。」
さっき二名が無事に戻って来たのを喜んで泣いてたくせに、ブッ殺すと言う。ドカドカと叩きのめす。むごい。



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