二十四、賞月(6)

 南湖の複雑に入り組んだ地形を明月が照らす。浮島のように見える小さなこんもりとしたみさきの上から白銀が降り注ぎ、水面に揺れる。
「やっぱちょびっと飲んじゃおっか。」
隊長がニヤニヤしながら酒壺を手に取ったその時、街道から四つの人影が近付いてくるのが見えた。隊長は酒壺を置いて静かに立ち上がる。俺達もそっとそちらを向いて彼らが近付くのを待つ。
 風が水面を揺らす波の音の他は、足音しか聞こえない。若い感じの男が三人と、年配の男が一人だ。真ん中に歩いている二人が陳幼珪ちんようけい李文喜りぶんき、横にいるのは幼珪ようけいの親父さんと文喜ぶんきのお兄さんだろう。二、三歩のところまで近付いて、幼珪の親父さんが何か言いだそうとした時、隊長が両手でさっと幼珪と文喜を捕まえてしまった。そして二人の背中を撫でながらさめざめと泣いた。やっぱ絶対泣き虫だろう。
 各屯から定時報告に来る連中に、幼珪と文喜が見つかったから南湖に戻って来るよう屯長たちに連絡させ、一時いっとき足らずで全員が集合した。二人の親父さんとお兄さんにはもう帰ってもらっている。張屯長は二人を怒鳴ったりぶっとばしたりして激しく叱った。うん、普通そうだろう。このあときっと什長にもこってりと油を絞られることだろう。そうしたらたぶん伍長は優しく慰めるだろうな。怒る係と優しくする係の役割分担があるわけだ。老張ちょーひが兵隊を鞭打って叱りつけ、皇叔りゅーびが「翼徳よくとく、もうそのくらいで勘弁してやれ」って言うような感じで。と、思っていたら、隊長は優しく仲裁するどころか面白そうにニヤニヤしながら張屯長を見守っている。張屯長のお説教が一段落して二人が泣きながら詫びを入れたところで、隊長がへらへらしながら
「あした俺様との立ち合いがあると思ったらおっかなくて寝れなかったのかな? ギャハハハハ。」
と無神経な笑い声をたてた。二人が叱られた子供のようにこっくりと頷く。
「ふうん、そいつは気の毒だったな。じゃ今晩安心して眠れるように、今のうちに立ち合い済ませちゃおっか。」
ぎょっとして顔を上げる両名の動揺をよそに、隊長は
「えっとね、」
と言いながら木刀の代わりになりそうな棒が落ちていないかそこらを探して歩く。
「はい、お待たせしました。どっちからやる?」
「あの、時計は……?」
文喜がおずおずと訊ねる。
「おっとそうだった。えっとね、時計がないんで、じゃあどうすっかな。張屯長。」
「はい。」
「こいつら以外の屯の連中と一緒にちょっとあっちに見える岬まで走って行って戻って来てくれる? 君らが行って帰って来るまでの間を立ち合いの時間としよう。」
「えっ! それ懲罰ですか?」
「いやいや、時計の代わり。ギャハハハハ。」
ぜったい懲罰だろう。



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