二十四、賞月(2)

「おおなるほど。なんかみんながゴソゴソやってると思っていたら、そういうこと。」
「気付いてたんですか?」
「うん。みんなが俺様を仲間外れにして遊んでると思ってすねて一人酒してたんだ。」
「なんだ、早く言って下さいよ。」
「君らが秘密裏に処理しようとしていることに口を突っ込んだら面子を潰すと思って報告が上がってくるのをじりじりしながら待っていたんだ。」
「怖いですね。」
「怖いもんかよ。お前らのやっていることなんか全てお見通しだみたいな態度をとりたがる奴なんか序の口なんだぜ。本当に怖い奴は、いつものらりくらりとしてとぼけた顔をしている奴だ。なんにも見てねえと思って油断していい加減なことをやっていると、ある日突然バッサリ斬られるぜ。」
「怖いですねえ。」
「怖いよ。で結局、見つからなかったんだな?」
「は? 何が?」
「行方不明の二人。」
「はい。かれこれ一時いっときの間、屯の連中で手分けして営内くまなく探しましたが見つかりませんでした。」
「じゃあ出ちまったかな? 西側の柵の下に一か所獣道けものみちがあるもんなあ。」
「え、知ってたんですか?」
「そんなの、この兵営に起居してる奴は一人残らず知ってんじゃねえの? 知ってて出ねえってのが麗しき伝統なのになあ。」
「らしくないですね。いつも物の管理とかすごい細かいのに。」
「柵があるから出れねえってだけで兵隊を拘束しといてもあんまいいことねえもん。出たい奴は出ればいいよ。」
「えっ、でもそれ放っといたら官憲に捕まって死刑ですよね。」
「そうだな。そうなる前に見つけてやろ。狭い漢中に潜伏できる場所なんてねえし、よそへ行くには必ず関所があるし、逃げ切れるわけねえのによ。馬鹿な奴らだ。」
「彼らは明日、隊長との立ち合いの順番が来るんです。」
「おっと、俺のせいだってかい。片腹痛いぜ。よっしゃ、じゃ今夜は月もいいことだし、お月見しよう。将軍に夜間演習の許可もらってくる。」
演習という名目で月見、という名目で、脱走兵の捜索だ。

 隊長はさっそく将軍のところへ行き、張屯長と俺は部屋で待っている。さっき隊長が片付けた酒器のほうを見ながら張屯長が笑った。
「あの人酒だけガブガブ飲んでんの? つまみとかなし?」
「はい。でも、ガブガブというよりスーッですよ。なんか、怪談で幽霊に追いかけられてるような場面で、必死で走って逃げているのに歩いているはずの幽霊から逃れられないっていうような描写ありますけど、そういう幽霊の歩みを彷彿ほうふつとさせますね。静か~に鯨飲げいいんするんですよ。実はさっき『季寧も飲む?』って聞かれたんですけど、バケモンに付き合ってたら命がないと思って断ったんです。」
「あの人そもそも軍隊の怪談だもんな。僵屍キョンシーだろ?」
脱走兵を二名も出していながらそんな呑気な雑談をしている張屯長も、変わった人だと思う。



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