二十一、血盟(6)

「今回の遠征でさあ、俺が司馬懿を生け捕りにするとか殺すとか騒いでたの知ってるだろ?」
みんな失笑を漏らしながら頷く。
「それ俺本気でやろうと思ってるんだ。で、司馬懿って人の人物紹介をみんなにしておきたくてね。」
息をのむ隙も与えず淡々と話し続ける。
「俺の悪意と偏見に満ちた人物紹介ね。」
ちょびっと笑いがおこる。
「司馬懿、あざな仲達ちゅうだつ河内かだい温県おんけんの人。年は五十一歳。うちの丞相より二歳年上だな。司馬懿が二十三歳の時に、曹操が司馬懿を招聘しようとしたのを病気を理由に断ったら、曹操が司馬懿のところに刺客を送り込んで、もし司馬懿がびっくりして逃げるようだったら殺せって指示したそうなんだけど、司馬懿はじっと寝たまんまだったから殺されずに済んだんだってさ。仮病使って招聘を断ったけどしれっと『俺病気なのホントだもーん』って寝てたとしたら、ずいぶん腹の据わった嘘つきだよな。機転もきく人なんだろう。」
「それ、褒めてるんですか?」
「いや、不気味な野郎だなと思ってる。」
みんなが笑う。隊長は笑わない。
「うちの美髯公びぜんこう樊城はんじょう攻略中に孫権に背後を衝かれて殺されたっていうのは知ってるだろ?」
「もちろんです。」
「孫権を焚きつけて美髯公の背後を衝かせるように曹操に進言したのは司馬懿だ。」
しんと静まり返る。
「最初の北伐の時に孟達もうたつがこっちに寝返ろうとしてたのを、通常の手続きをはしょってえんから上庸じょうようまでの千二百里をたった八日で駆けつけて計画を潰しちまった異常な野郎も司馬懿だ。上庸に向けて出兵しますけどいいですかって上に了解をとりつける暇も惜しんで独断専行でやったんだな。いい根性してるよ。」
「それ、褒めてるんですか?」
「いや、不気味な野郎だなと思ってる。」
こんどは誰も笑わない。
「今回の遠征では、あっちの将軍たちがこぞってうちらと戦いたがってたのを、司馬懿が懸命に引きとめてたってよ。こちらとしちゃあ遠路はるばる兵糧運びながら戦ってるんだからモタクタするよりサクッと会戦するほうが楽だけど、司馬懿はそういう事情を理解したうえで足元見てやがるんだ。嫌な野郎だよ。」
峭刻しょうこくな表情で淡々と言う。



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