二十一、血盟(3)

 しゃべっている間に隊長はせっせと小麦粉や蜜を計量し、幼信を送り出す頃には小さいまあるいお菓子の生地を作り上げていた。折よく炊事班の作業が終了する頃となり、晩飯を食いに出る道すがら、鍋を下ろした後のかまどの残り火を利用してお菓子を焼きにかかる。食事をしている間にお菓子が程良く焼き上がり、一緒に飯を食っていた連中に食後のおやつとして一個ずつ配って、残りを部屋に持ち帰る。食後のお茶を淹れにかかったと思ったら、折よく李隊長が遊びにきた。笑顔で迎える。
「ちょうどお茶が入ったところですよ。」
「なにそれ。超能力?」
「そちらから念を送って下さってたんじゃないんですか? アハハハ、オレ遊びに行くからさあ、お茶いれといてね、って。」
「あれっ、今のオレの物真似? アハハハハ。」
気に入った様子だ。
「お茶うけ用意しときましたよ。焼き立てほかほかです。」
「あのさあ、まさかオレが来ることを予見して、負けじと大急ぎでお菓子作ってたわけ? 負けず嫌いにも程があるよ。可愛くないねえ。そういうふうだから友達ができないんだよ?」
「ガキなんですよ。」
「それは知ってるけどさ。ほんと可愛いよねえ。」
可愛いのか可愛くないのかどっちなんだ。熱そうにお菓子を指でつまみ、旨そうに二つ三つ立て続けに食べる。李隊長の甘い物の食べ方は独特だ。
散関さんかんのほうはどうだったんですか?」
「退屈で死にそうだったよ。なんにも動きナシ。祁山きざんのほうはずいぶんと盛り上がってたみたいだね。なんか、異度くんがやんちゃなこと言ってたんだって?」
「司馬懿をぶちのめして顔に落書きしてくるって言ったんですよ。そうしたら、将軍に『馬鹿か。生け捕りにして来い』って怒られちゃいました。」
「アハハハ、冗談は相手を見て言わなくちゃ。」
「まあ、やれって言われればやるつもりでしたけど。」
「ふうん。馬鹿だねえ。」
愛おしげに笑っている。俺は勤務兵の分をわきまえず会話に割り込む。
「あのお、馬鹿な事やめろって止めてあげる気はないんですか?」
「そんなの面白くないじゃん。馬鹿が歴史を動かすってことあるよね。常識的な人が不可能だと思うようなことをひょいっとやっちゃうの。」
「物理的に可能だと思いますけどねえ。」
隊長は呑気にこう言いながらお茶を飲む。実に異常な奴だ。さっき遠征から帰って来たばっかりなのにどうしてお菓子まで作って優雅にお茶なんか飲んでいるんだろう。そして自分を含めた三百三十七人が全滅するかもしれないような暴挙について、他人事のように呑気に「可能だと思いますけどねえ」なんて言っているのだろうか。頭おかしいんじゃねえか。俺は感想をそのまま口にした。
「頭おかしいんじゃないですか。」
すると李隊長がくすくすと笑い始めた。



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