二十、お山の鳥の声(12)

 この二日後の晩に、大々的な出撃があった。我々が三十里ずつ後退しているのにつられて、ついに司馬懿が追撃を企ててやって来るということで、それを待ち伏せて逆にやっつけてやれという趣旨だ。この作戦に、俺達の魏鎮北は加わらず、まさかのお留守番だった。丞相が最も困難な任務を魏鎮北に引き受けてもらいたそうに目配せをしていたのに、将軍は俯いてシカトしたという。信じられない話だ。まさかとは思うが、今回司馬懿との会戦が叶うとしたら韓英を司馬懿のところにぶつけないといけないがあいつには任せられないからいっそ出撃しない、って考えたんじゃあるまいな。俺達そこまで見くびられているのだろうか。あるいは、よもやと思うが、韓英においしいとこ持ってかれることを妬んだ腐った同僚から何か妨害工作でも入ったのだろうか。まさかな。考えすぎだ。将軍が行きますって言わなかったのは、たぶんぽんぽんでも痛かったんだろう。
 この出撃でも我が軍は大将首を一つも挙げられなかった。大量の軍馬、兵器を得、あまたの士卒の投降を受け、大勝利ということにはなったが、敵がガッツリ罠にはまったっていうのに大将首挙げられなかったらだめだろう。

 その後、両軍にはぱったりと動きがなくなってしまった。虚しく夏が過ぎる。麦は無残に立ち枯れている。
 遠征が始まって四カ月が経った。我が軍は四カ月ごとに前線の兵士を三分の一ずつ入れ替えて順次休息させる体制をとっており、今回、俺は漢中に帰る番になった。将軍や隊長は前線に留まるのだが、屯長以下の士卒が三分の一入れ替わるのだ。帰還する士卒に、隊長は肉桂とか霊芝など、わけの分からないお土産を持たせてくれた。
「え~、これもらってもなあ。」
みんなが動揺していると、
「どっかで売っぱらえよ。んで、食材として売るんじゃなくて、薬局に持ち込んだほうが高く売れるぜ。あと、みんなで一斉にやると相場がおかしくなっちゃうから、時期を分けるとか違う街でやるとか、なんかみんなで相談しながら上手くやってくれ。」
と、難しい話をした。
「相場ってなんですか?」
「ああそっか。えっとね、陳屯長。」
みんなの中では比較的数字に強そうな陳屯長を指名して相場に関する説明を始める。まあ、感覚的には分かるような話だったが、相場なんていう言葉は農作業と軍隊しか知らない俺達にはなじみがない。



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