二、城壁にて(5)

「君らもそういう考えで思う存分やってくれていいんだぜ。君らがなんか失敗した時には俺が将軍にバッキャローって怒られちゃうけど最終的に責任とるのはあの人だ。へっへっへ、お気の毒。まあもちろん俺は今回の強行軍が失敗に終わるとは思ってないけどな。じゃ俺ゆっくり百まで数えたら太鼓鳴らし始めるからな。ハイ走って!」
屯長達が走らされているところを初めて見た。いい眺めだ。
 屯長達は不服顔だったが、俺は隊長の説が案外とうを得ているような気がした。理解を深めるために一つ質問をしてみた。俺は真面目なんだ。
「隊長、一つ質問よろしいですか?」
「はい。なんでしょう。」
「さっきの話なんですけど、将軍が失敗した時は誰が責任をとるんですか?」
「将軍は失敗できねえだろ。影響大きすぎるもん。将軍が失敗したら国策あやまっちゃうぜ。なんという重責を担ってるんだろうねえ、あの方は。偉いよ。根性あるよなあ。せいぜい大事にしようぜ。」
「ふうん、だから禄が何倍も違うんですね。」
「まあ単純に禄に換算できる問題でもないと思うけどな。」
質問をしてみたものの、やっぱりよく分からない。隊長がいい部下なのか悪い部下なのかも分からない。少なくとも迷惑な上官であることには違いない。

 俺達は二年から十五年くらいまでの経験者からなる精鋭部隊だ。三百里という距離をぶっ通しで歩いたことはないが、やれと言われればできるだろう。ただ、一人も欠けずにっていうのはたぶん無理だ。ぜったい誰か具合悪くなったりするだろう。ま、誰かが落伍するかもしれないが、俺はテキトーにやってやろっと。全員城壁を登った時点で終了なんてほざいていたが、誰かがどうしようもなく故障したら隊長だって諦めざるを得ないだろうぜ。ざまあみろ。
 みんな俺と同じような不遜な気持ちを抱きながら無責任に歩きだす。俺の屯は一番後ろだから、最後尾で行軍を取り仕切っている隊長に多少の遠慮をしながら黙って歩くが、前を歩いてる連中は遠慮もなく声高に不満をこぼし合っている。
「三百里なんて気違い沙汰だよ。」
「まあ折り返して南鄭なんていに戻って来るわけだから、復路は気持ちの上では楽なのかもしんねーけど。」
「ぜってー腹減るだろ。日も暮れるしよ。」
「今夜はいい月が出そうじゃん?」



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