二、城壁にて(14)

さんざん大騒ぎをして公惟と隊長を引き上げる。九死に一生で助け出されたくせして、隊長は満足げにこうのたまった。
「やったなあ。全員城壁登ったじゃん。」
「最後ちょっとズルがありましたけど。」
「ズル? どこが?」
「助けてもらって登った人がいますよね。」
「おい、今回の訓練の目標しっかり聞いてたか? 全員が城壁を登ったら終わりっつったんだぞ。全員自力で登れとは言ってないぜ。」
「はああ?」
「はあ、じゃねえよ。俺さっき公惟が下でぶっ倒れてた時、なんで誰も助けに来ねえのかなって待ってたんだ。」
「ええー。手助けしていいんだったらちゃんとそう言っといて下さいよ。」
「確認しろって。全員登んねえと終わらせねえって言っといたろ? さっきのあれ放っといたら絶対無理じゃねえか。なんで手助けしていいですかって確認しねえんだよ。」
「…………。」
「あのさあ、戦争って人間同士でやってるもんじゃん。ささいなことでもしっかり会話して確認しなくちゃだめだぜ。俺一人があれこれ指示してみんなが言われる通り動くだけっつってやってたら、それは一人の知性の限界までで終わっちゃうんだよ。そんなんじゃなくて、一人一人が作戦の目標を理解して、五百五人全員が一丸となって戦うんだぜ。どんなことになってんだか知らねえけど指示通りに動いたからあとは放っとくってんじゃだめだ。いつも自分の頭で状況を冷静に判断しろよ。変なことになってんなと思ったらどうなってんだってしっかり確認して動くんだぜ。」
「はい。……。」
変なことを言う奴だ。兵隊が迷うことなく動けるように常に明快な指示を出すのが指揮官の仕事、上から言われたことには理屈抜きに盲目的に従うのが兵隊の仕事だろ。そういうふうにやってかないとぐしゃぐしゃでノロノロで収拾つかなくなるぜ。誰に向かって説教してるつもりだよ。幹部教育じゃあるまいに。みんなで目標を共有して一心同体で動く部隊? ありえない。
 助けてやったのにありがとうございましたの一言もなく、わけの分からない説教を聞かされ、俺達はどうにも釈然としなかった。一瞬の沈黙の後、隊長は突然ニッコリと笑った。
「でも最後には自分達で判断して助けに来てくれたな。嬉しかったよ。ありがとう。」
呆気にとられている俺達に隊長は軍歌の指示を出した。
「ご機嫌でいっちょ歌おうぜ。無衣ぶい。」
  豈曰無衣 与子同袍
  (ころも無しとわんや ほうを同じくせん)
  王于興師 脩我戈矛……
  (王 ここおこす 我がぼうおさめ……)
ゆったりとした古詩の単調な韻律が、疲労と空腹で痺れた心身に沁みていく。城壁の下からは炊煙が、旨そうな匂いとともに立ち上ってくる。あの鍋の中の料理は、隊長が妖術で用意したのか、それとも出発前に手配して用意させていたものなのか、俺は聞く勇気がなかった。



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