二、城壁にて(10)

隊長は落ちこぼれの横にかがみこんで訊ねる。
「登んなきゃ終わんないけどさあ、お前どうする?」
落ちこぼれの戦友は何やらメソメソぼそぼそと返事をする。すると隊長は城壁の上に向かって呼びかけた。
呉屯長ごとんちょう。」
呉屯長は面倒くさそうに城壁の下を覗く。
「はい。」
「可愛い部下が泣いちゃったぞ。どうする?」
呉屯長は濁声だみごえで下に呼びかけた。
「グズグズするな公惟こうい、早く登って来い!」
隊長はゲラゲラと笑った。
「ギャハハハ、馬鹿かよ。来いと言われてすんなり登れりゃ泣かねえ。てめえが下りて来やがれ、このボンクラめ!」
呉屯長は城壁から顔を引っ込めて舌打ちすると、公惟が所属している什の什長を呼んだ。ちなみに、兵士十人で什、什が五個で屯、それぞれに什長と屯長がついて、一個の屯の総員は五十六名だ。
宋什長そうじっちょう。」
「はい。」
「行け。」
呉屯長は城壁の下を顎でしゃくった。
「えー。呼ばれたのは屯長じゃないですか。」
「あんな馬鹿の相手してられるか。」
う~ん、隊長は確かに馬鹿だが、そう言うあんたはろくでなしだ。宋什長は不服気ながら縄を伝って下へ降りて行く。偉い人だ。
 宋什長が下りて来るのを見て、隊長は目を丸くした。
「おや呉屯長、しばらく見ない間にずいぶん若返って男前になったね。」
「いえ。自分は呉屯長ではありません。」
「へえ、おかしいな。おれ呉屯長を呼んだんだけど。ま、いいや。で、どうする?」
「え~? それ自分が考えることですかあ?」
「君がどうするのかを質問してるんだ。べつに『俺の責任じゃねえから知らん顔してる』って答えてもいいんだぜ。」
「いや、知らん顔って、まさか。隊長、全員城壁を登らないと終わりにしないっていう計画、見直す気ないんですか?」
「ねえな。」



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