十九、悪党(6)

「こうして気前よくバラ捲いて下さるのもいいんですがね、貯金をしないんですか?」
「蓄財? ギャハハハ。」
「真面目な話、結婚を考えないんですか? 所帯を持てばこういう金遣いはしなくなるものだと思いますが。」
「陳さんはどうなの? 出世願望とかあんの?」
「いま私の話はしてませんよ。」
「たまに偉くなんかなりたくないっていう奴いるじゃん? そういう奴ってどういう考えなんだろうな。」
「怠惰なんじゃないですか?」
「ほお、一刀両断だ。」
「まさか隊長、偉くなんかなりたくないと思ってます?」
「おれ何かもっと別の分野で偉くなりてえな。六鞱りくとう研究の大家とか。」
「大家になるために何か努力してますか?」
「してるよ。おれ六鞱愛好家の中ではちっとは名の知れた論客だ。」
「え、そうなんですか?」
「へっへっへ、新たな一面を知っちゃった? 俺はただの料理好きの暴れん坊のオッサンじゃないんだ。俺から料理と軍事を取り除いてもなお六鞱りくとうが残るってわけ。」
「まさか六鞱の実証のために軍人の道を選んだんじゃないでしょうね。」
「まさか。おれ徴兵だもん。それに俺が六鞱のなかで関心を持っている分野は軍事的な内容についてじゃないし。」
「は? 兵法書ですよね。」
「そんな読み方しかしてない奴が多いよな~。もっと面白いのに。」
「なんですかそれ。」
「興味あればこんど六鞱の読書会に参加してみる?」
「いえ、遠慮しときます。」
「ギャハハハ、関心ねえのか。」

 その後も屯長、什長から兵卒に到るまで、続々と隊長に忠告をしにやって来た。先刻の隊長の計算によれば四人に一人がワルだということだが、そのワルから秩序を守ろうとする偉い奴も大勢いるということだ。訪問者が途絶えた時に、隊長は上機嫌でこうほざいた。
「ギャハハハハ、みんな超マジメ。異常だぜ。黙ってふんだくっときゃいいのになあ。」
俺はみんなを代表して、みんながどう考えているかを教えてやった。
「これは隊長の人徳なんですよ。隊長が超細かくて、しかも見つけたことに対してネチネチ嫌味を言う人だってみんな知ってるから、面倒なことになる前に自己申告するんです。」
「面白えな。俺が面倒な奴だってことを日頃から宣伝しておけば、俺の面倒が省けるってわけだ。ひゃっひゃっひゃっ。ああ愉快愉快。」
みんなの善意を愚弄して面白そうにしていやがって。最低な野郎だ。銀貨をくすねるワルよりも、こいつが一番の悪党だと思う。



《広告》
ページ公開日: 最終更新日: