十九、悪党(4)

 なんか腹立つ。俺は生真面目きまじめに隊長からもらった銀貨をしっかり管理しているのに、うっかり失くしちゃった奴になんでそんなに優しいんだ。っつうか、失くしたんじゃねえだろ。絶対使い込んだだろ。
「隊長、なんで紛失の経緯を問いただしもせずに、あっさりもう一枚くれてやったんですか? あいつ絶対使い込んだに決まってますよ。」
「どうでもいいじゃん。ギャンギャン叱りつけるのも面倒くせえ。」
「何に使ったか追及しなくていいんですか?」
「欲しけりゃくれてやる。一枚残らず持ってきやがれ。」
「え、いやいや、ダメですって。お金は大切にしましょうよ。」
 冗談で言っていたが、その後、銀貨をもらいに来る奴がぱらぱらと現れ始めた。くれって言えば無造作にどんどんくれるよ、という評判が広がったか知らないが、結構な人数に昇った。失くしてないのに二枚目を貰おうって魂胆の奴もいるんじゃないかと俺は疑った。しかし隊長は無造作にくれてやる。馬鹿だ。
 この状況に気付いて真っ先に隊長のところに殴り込み、じゃなかった、乗りこんできたのは、黄屯長だった。
「隊長、銀貨を使い込んだ奴に、何に使ったか聞きもしないでどんどん銀貨をやってるって、本当ですか?」
隊長はニヤニヤ笑っている。
「へえ、使い込んでんの?」
「そうに決まってるじゃないですか。馬鹿ですか。」
「なんで決めつけてんだ。馬鹿はてめえだ。」
「水筒に入ってるものをそうそう失くすわけないじゃないですか。金に困ってる奴とか、博打にはまってる奴とか、放っておくっていうんですか?」
「へっ、俺様に屯の中にまで手を突っ込んでぐるぐるかき回せってかい。さっきの言葉、そっくりあんたに返すぜ。なんでてめえで調べもしねえで俺んとこに来やがった、このぼんくらめ。」
黄屯長は憤然として出て行った。
 次に殴り込み、じゃなかった、乗りこんできたのは、張什長だ。
「隊長、ガキどもになめられますよ。」
こう言って、隊長に銀貨を三枚返した。
「金のなる木じゃないんですから。なんで失くしたんだ、どこで失くしたんだ、ってちゃんと聞かなくちゃだめじゃないですか。ちゃんと一枚持ってるくせに余分に取ってくワルがいるんですよ。巻きあげてきましたけどね。しっかりして下さい。」
「事実を調べて余分にもらってる奴から回収してくれたわけか。やるなあ。」
「なに呑気なこと言ってんですか。ほんとになめられますよ。」
「俺がなめられてても、君らがなめられてなければうまくいくんだ。」
「そんなわけないでしょう。」
「回収して下さってありがとうございます。しっかし、これを張什長から直にもらっちまったら呉さん怒っちまうな。」
「そっか、ガキどもの悪さを報告する相手は呉屯長ですね。じゃこれも屯長に渡してきます。呉屯長から隊長にねじこんでもらいますよ。」
「そうそう、呉さんに叱ってもらおう。『隊長、ぼんやりしてないで下さいよ。什長があきれてますよ』ってな。」
張什長は楽しげに出て行った。



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