十八、桃姚路(とうようろ)(6)

 半時ぐらい歩いたら少し台地っぽい場所に出たので、そこで野営の仕度に入る。ここでも隊長はいっさい指示を出さず一人で好き勝手に遊んでいる。何やら袋の中から長い物を取り出してぶった切ったので何事かと思ったら、蛇の頭を落として生皮を剥いでいるのでギョッとした。きっと道中のどこかで捕まえて、食おうと思って持ち歩いていたのだろう。気持ち悪すぎる。べつに俺は蛇がとりたてて苦手なわけではないし、蛇の肉が食えるという話も知っているが、わざわざ捕まえて持ち歩いて楽しげに料理する人物を目の当たりにすると気味が悪い。辺りの薄暗さと疲労と心細さがあいって、何か人間ではないものを見るような気分になる。ひょっとして俺達がなんでもない低い山の中で迷子になっているのも、この妖怪のせいなのではなかろうか。俺はたまらず王什長のところに走った。什長の袖を掴んで隊長を指さしながら訴える。
「什長~、あいつ蛇料理してますよ。生皮を剥いで。」
什長は驚いたふうもなく言った。
「蛇か。旨いのかな。」
「どうしたんですか! 正気に戻って下さいよ!」
什長の肩をつかんでガクガクと揺さぶっていたら、
「お前こそ正気に戻れよ。」
と笑われた。みんな妖術にかかってしまっている。正気なのは俺だけだ……。
 妖魔にたばかられたような山中で、楽しみにしていたお花見のごちそうを食べる。悲しくてしかたない。隊長は素焼きにした蛇肉を嬉しそうにかじっている。
「誰か食べたい奴いる? 先着五名様。」
希望者殺到で手勢令むしジャンケンが始まる。異常だ。
 食事が終わると隊長は木のぼりを始めた。野性児かよ。まったくあきれる。陳屯長が真面目くさった表情で聞いた。
「何をなさってるんですか?」
「星を見てるんだよ。綺麗だぜ。」
なんてお気楽な人だろう。陳屯長もさすがに呆れたのか、無言だ。
「陳さん、北辰北極星ってどこにあるか分かる?」
「いえ。」
「あっそ。じゃ教えてあげるよ。登って来て。」
「遠慮しときます。」
「却下。登って来い。命令。」
「はあ。」
しぶしぶ登って行く。確かに、陳屯長に北辰の見分け方ぐらい知っといてもらうのは必要だ。星を見ることは夜間に行軍する際、方角を見分けるのに役に立つ。陳屯長は隊長に万が一のことがあった際に隊長の代わりを務める係だから、そのくらいのことは知っておかなくちゃだめだろう。



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