十八、桃姚路(とうようろ)(3)

 なにに心配していたら、晩飯前には何事もなかったように営内に戻っていた。そして楽しげに山菜を炒めている。馬を休憩させて道草食わせてる間に、自分も道草食って山菜摘んでいたらしい。
「なんか、元気になって帰って来ましたね。」
「うん。さっさと用事済ませてやろうと思ってせかせかやってたら元気でた。こういう刺激がいいんだろうな。」
「せかせかヤるって、なんかアヤシイですね。一人で外出していつも何やってるんですか?」
俺はこのあいだまで隊長はずっと営内に起居しているものだと思い込んでいたが、こっそり全隊員の家庭訪問を済ませていたという話からすると、ちょくちょく一人で出歩いているに違いない。
「普通に用事済ませる他は、買い物とか。時々狩り。」
「女。」
「ギャハハハ。今の文脈、マズいだろ。女を買ったり狩ったりしちゃうってふうに聞こえる。」
「そういうことなんじゃないんですか?」
「女って言やあよ、普通に街歩っててちょいと綺麗な感じの妙に満ち足りた顔つきをした品の良い二人連れの女が優しげに声かけてきたら、大概宗教の勧誘だな。」
「まさかそういう人らの話を真面目に聞いてあげちゃってるんですか?」
「どんなこと言うのかな~と思ってウンウンって最後まで聞いた挙句、すんませんやっぱ興味ありません、って言った時の、女のガッカリした顔はなかなかいいものだな。小綺麗な優しげな女たちにガッカリされるってのはちょいと快感だ。」
「人でなし。変態。」
「あの宗教の人たち、俺のような悪人にこんなお楽しみを提供しちまってるって知ってんのかな。」
「天罰が下りますよ。」
「べつにわざとやってるわけじゃねえよ。人様に話しかけられてシカトすんのも失礼かと思ってお行儀よくしてたら自然とそうなっちまうわけ。」
「きっとさぞ紳士面しんしづらして優しげに傾聴してるんでしょうね。」
「やらしげにじゃなくて?」
「そこそこのなりをして、あのいい馬に乗って出かけるんですから、おとなしくしてたらまあまあ貴公子っぽく見えますよ。宗教団体のいい金ヅルになりそうだと思われて狙われるんじゃないですか?」
「禄の大半は趣味に消えて素寒貧すかんぴんなのになあ。」
「そんなことだろうと思ってました。」
これから晩飯だというのに、隊長の山菜炒めを食べる。山菜なんて腹の足しにもならないし大して旨くもねえと思っていたが、これは旨かった。なんなんだろう。上手にあくを抜いたりとかしてんのかな。てめえのあくを抜きやがれと言ってやりたいが。まあ、元気が戻ったようで、よかった。



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